だい いち わ ~妖怪~
「妖怪」
私は独白する。
「人知や現代科学では証明できない者たちの総称。またはその類。化物。……国語辞典や百科事典で調べればそれくらいの情報はすぐに出てくる。出てくるけど、ただそれだけ」
私はペンを置き、うん、と背筋を伸ばす。
長時間同じ姿勢でいると、どうしても背筋がこってしまう。
ボキボキボキと、嫌な音が背中から聞こえてくる。
「彼らが何者なのか、どこから生まれたのか、どうやって存在しているのか、どこに消えるのか。それは文字通り、闇に包まれている」
再びペンを持ち、私は目の前の紙に向き直る。
「『妖しく』『怪しい』から『妖怪』。光に生きる人間には到底理解できる代物ではない」
カリカリとペン先を動かし、私は文字を書き記していく。
同時に私は独白を続ける。
「でも、もし。光に生きる人間と闇に生きる妖怪が共に生きていたら、その世界は一体どうなるのか。いや、妖怪だけじゃない。そこには幽霊や神様だっているかもしれない。もちろんただの人間ではない、陰陽師や魔術師なんかもいるに違いない」
独白は続く。
「人間と妖怪が机を並べて勉学に勤しんでいるかもしれない。人間と幽霊が友人関係となるかもしれない。人間と神様が恋仲になるかもしれない」
独白はなおも続く。
「妖怪を信じるかと言われて、素直に頷く人間はどれだけいるだろうか。幽霊はいるかと聞かれて、もちろんと答える人間はどれだけいるだろうか。神様はいるかと聞かれて――いや、この質問には多分に宗教的要素を含んでいるか」
それでも、と。
私は独白を続ける。
「それでも私は自信を持って、うん、と頷く」
この町は、そういう町なのだから。
そう紙に書き連ね。
私はもう一度背伸びをする。
今度は嫌な音は聞こえてこない。
私はペンを置く。
もう夜も更けた。
思い立って書き出してはみたものの、さすがにやはり眠くなってきた。
続きは、また明日。