お金はおっかねぇ
今日は親しい友人と一緒に飲食店へ。珍しく私のオゴリだ。
チェーン店という訳でもなく、至って普通の店。腹が減り、どこでも構わなかった。
中は古ぼけた感じのする雰囲気を漂わせていた。シミの落ちなくなった白い壁、年代物のカウンター、品書きは油性マジックで手書き。
カウンターの向こう側ではボーっとしたような若い女性店員が一人で調理を続けている。
客は自分達の他に一人。しかし、その男の恰好は周りと不釣り合い。
腰に本物かどうか疑わしい剣を下げ、革の鎧を装備、マントらしきものを身につけている。
言ってしまえば、旅人。
私はこの店に妙な違和感を覚え、友人を見たが無反応。彼は何の疑いなく女性店員に定食を注文した。
「……あっ、俺も同じ奴で」
釣られるようにとりあえず注文した。女性店員は旅人に料理を出すと、定食二つに取りかかっていた。
「この店、なんか馴染めないなぁ」
私は友人だけに聞こえるように小声で不満をぶつけた。何が、と返されれば返答はできない。
「そう? 俺は別に気にならないけど。それより、太っ腹さん頼みますよ~?」
「わ、解ってるよ」
太っ腹、要するにオゴリの話だ。勿論、一度言った事を撤回するような無様な真似はしない。
ふっと横を見ると、汚れた壁に可笑しな張り紙を見つけた。
『マイナス10%割引中!!』
おそらく、イタズラか何か。気にしてはいけないオーラが匂っていた。
旅人より先に完食し、カウンターに向かう。友人はそれを見ると店を少し出た。
どうせ気前のいい事をしているのだ。私は少し格好つけてみた。
「釣りは要らねぇよ」
私は愚かな自己陶酔をし、意気揚々と店を出る。あと一歩で店の外へ出る時、背後から店員の呼びとめる声が聞こえた。
「お客様ー、10円足りないDEATH」
私は足を踏み出す手前で凍りついた。とんでもなく格好悪いミスを犯してしまったのではないか。
いや、持ってきた金額より少しだけ定食二つの方が安く済む筈。それでこの店に入ったのだ。
―――嫌な事を思い出した。あの張り紙……イタズラではないというのか!?
「はは、は、ははは、は……」
振り返って無表情の店員に無理な作り笑い。余計に場がシラけてしまった。
もう金は持ってない。精神的にも絶体絶命のピンチに、私は救世主を思い出した。
店の外にいる友人を頼る!
「悪い、家に帰ったらすぐ返すからさ、10円だけ貸してくれない?」
彼は財布から10円玉を取りだす。救われた。
「今、ギザ10しか持ってない。50円で返せよ」
二度目の凍結。背後の店員の視線が辛い。
私は友人を引き入れ、後ろを向かせる。膝カックンを命中させ(2500ダメージ!)、友人は膝から崩れて昇天した。
急いで遺体を死角に隠し、今度は旅人の元に向かう。
「すみません……10円貸して頂けますか」
「あの、今10ゴールドしか余ってないのですが……」
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??????!???
10ゴールドってどういう単位なんだ……。
この旅人は中身までRPGなのか……。
モンスターを倒したら落としていったとでも言うのか……。
しかし、だ。他に道はない。私は連絡先などを済ませ、店員に見た事もない金色の硬貨を出した。
やっとこの地獄のような空気から解放されるのである。
「お客様ー、申し上げ難いのDEATHが、まだ足りていません」
……。
10ゴールドって10円の価値もないのか……。
土下座。
40円が為に友人を帰らぬ人になどしなければ良かった。後悔先に立たず。
旅人が食事を終え、店員に1000ゴールドを払って言い放つ。
「釣りは要らねぇぜ」
店員は顔を真っ赤にして口に手を当て、友人のように膝から崩れ落ちた。
「ス……ステキ……!」
旅人は出ていく。あの野郎、弄 び や が っ た!!
店の中で立ち上がる事のできる者はいなかった。
テーマは「お金は大切」。呆然とするのが一般人の正しい反応です(ぇ
唐突な路線変更でギャグに走りました。