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うんぬん 【掌編小説集】  作者: ナユタ
◆フリージャンル◆
5/21

うやむやあやふや

 彼は大学生。

 人の流れに従い、普通に生きてきた。現在は残り数年の学生時代を謳歌している。

 大学は自宅から遠くなく、バイトもしてはいるがこれも近所だ。



「ただいまー」


 返事は期待していないが、その通りだった。寂しくバイトから帰ると、彼はすぐに一階のリビングに寝転がった。

 とんでもなく日常。電源の付いていないテレビの画面に自分が映る。

 自分の背後に、とんでもなく非日常なものが無造作に置かれていることに画面を通して気付いた。


 当然だった。驚いて振り返ると、机上には何やらモヤモヤした「物体」……と言えるのかさえ不明な代物があるのだから。

 一言で言うならばそれは、“モザイク”。

 テレビで見せられないものに局が自主規制として施す、あれである。だがこのモザイクはプラスチックのパックに収められている。


「母さん、これ何?」

 何処にいるのか解らなかったが母親に尋ねる。母親は隣の部屋からのこのこと寄ってきた。


「あぁ、それ。流行ってるらしいから買って来たんだけど、私には使い方が解らなくてさ」

 母は目新しいものを好んで買ってくる。今や使い道のなくなったガラクタも多い。

「またかよ。どうせ信憑性のない売文句に唆されたんだろ」


 母親は苦笑いだ。自由に使っていいと言い放って元の部屋に戻る様子から、図星に間違いない。

 使う、と言っても何に使うものか知らない。とりあえずパックを開き、モザイクに触れてみる。

 妙な感触……。指二本を使って摘まみ上げると、空気のように軽いその空間はパックを離れた。持てる。


 しかしどうしていいものか。パックに放り戻すと、この物体の性質が解った。同時に恐怖を覚えた。

 摘まんだ指先がモヤモヤして見えるのである。拭おうとして服でこすると、服には薄くモヤモヤが移ってしまう。


「意味わからねぇ。何なんだよこのモザイク……」




 それ以上モザイクには触れず、気にはなりながらも一日を過ごす。

 翌日の大学、空き時間。またも驚かされることがあった。


 親しい友人が、目の辺りにモザイクをかけて自慢をしてきたのだ。その容貌はさながらテレビに移る容疑者。対して友人は完全に引いている彼を見て笑う。


「これ、面白いだろ! 俺には目の前がしっかり見えてるんだ、どういう仕掛けなんだろうな!」

「お前、それなら俺も持ってる! 見ろ、未だに指先が霞んでる」


 彼は昨日から治らない二本の指を友人に見せた。

 母親は流行っていると聞いて買ってきたと言っていたが、まさかあんな有用性の無いものが本当に流行っているのだろうか。

 まだ若者でありながら、現代人のセンスに置いて行かれた気分を味わった。


 友人は言う。

「他にも持ってる奴ならいるみたいだ。近々流行するぞ。なんて言うかそう、心が大きくなった気分がする」

 友人は彼にモザイクを勧めてきた。彼には暗闇を手探りで歩き回るような未知の恐怖が増してしまった。




 何故だか恐怖よりも小さな好奇心が打ち勝ち、家で彼はモザイクを目の辺りに塗ってみた。

 これで周囲からは目がぼかした状態で見られる。つまりそれは、人の目が気にならないということでもあった。



 モザイクはメディアに取り上げられる等して、世間一般に本格的に普及し始めた。

 その勢いは疾風迅雷。瞬く間に人は一部をモザイクにすることが普通となった。

 中には新たな効用を発見する者までいた。手術して喉に塗れば、声までぼやかすことができたのだ。


 彼も流行の例に漏れることなく流れの一滴になっていた。

 そして全身にモザイクをかけた者まで現れる始末である。否、むしろモザイクなしの素肌などみっともないと言われる段階まで上り詰めてしまう。

 こうなっては彼も全身に塗る他なかった。世間がそうさせたのだと勝手に理由を付けて。


 人の目が気にならないそのモザイク流行は、凶悪な犯罪をも促した。荒廃していく治安。彼は遂に心配になり始めた。

 モザイクが世界を侵略しているのではないかと本気で思う程に。




 そんな中、彼はあの友人とコンビニへと来ていた。

 モザイクだらけの雑誌を読んでいた彼は、横目で万引きをする友人を見た。モヤモヤでも解った。服の中に商品を忍ばせている。


「おい、何やってんだ……早く元に戻せ」

 店員に気付かれないよう小さな声で警告。

「バレねぇよ。気付かれても構わねぇし」


 彼は凍りついた。雑誌は掌から滑り落ちる。こんな、こんなんで良い訳がない。

 訳の解らないモヤモヤに世界が食われてしまっているのだ。あれは劇薬だ。


「こんなの、おかしいだろ!! 俺は、もうこんなもの必要ない!」

 初日にこすれば薄まることを知っていた。世界を救おうなんて大層な考えはなかったが、世界を救う最初の一歩になればそれでいい。



 彼は思い切り顔を掻き続けた。友人は尻もちをついて「やめろ!」と叫び続け、後退するばかり。

 この時、久しぶりに周囲の目が気になった。モザイクを外すことは恥ずかしいなんて思ってしまっている。



 そして遂に頬の肌が新鮮な空気に触れた。

「全てを隠す必要なんてない! お前にだってできるこ……」




 世界が消滅した。真っ白に。そこに丁寧な黒い文章が浮かび上がった。


【大変お見苦しい映像が流れ、誠に申し訳ありません。復旧まで、暫くお待ちください。】

テーマは「現代社会」。若干ホラー気味ですね。

実は現代のパソコンや携帯電話への皮肉が込められています。皮肉であって批判ではありませんよ。

短編の方にも投稿した作品です。

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