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うんぬん 【掌編小説集】  作者: ナユタ
◆フリージャンル◆
4/21

無為

 これこそ暇と呼ぶのだろう。

 天気は晴れ。特に何もすることはない。誰も来ない。



 病院の個室に一人の高校生が寝ていた。寝ていると言ってもベッドに横になっているだけ。ベッドは窓辺に置かれていて、ここ4階からはいつもの街が見渡せる。


 本当ならば学校、昼休みが終わる時間。

 しかし彼は登校中に自転車に乗っていて転び、右足を骨折。数日前から病院に缶詰状態だった。

 時計を眺めたまま意味もなく静止。これから午後の授業なんだろうな、と意味もなく思いに更ける。



 欠伸。続けて、欠伸。

 涙が出そうだったので、出せるか挑戦。

 出た。落ちる前に拭う。暇になった。欠伸が出る。


 どれだけ脳は酸素を欲しがっているんだ。こんなに暇なのにフル稼働している筈はない。


 たまに両親が見舞いに来るが、平日ともあって早朝に母親が来た。学校もいつも通りやっている。つまり話相手はなし。誰かが来ることは望めない。

 唯一の趣味……という程でもないが楽しみなゲーム機も、母親が持ってくるのを忘れて今はない。


 運動も足がこれでは何もできない。その前に苦手だ。むしろ才能が開花したこともない。

 勉強。定期テストは終わったばかりだ。なんて無難な、成績に差し支えない時期の事故なのか。

 じゃあ、寝る。だが、母親が来た後から昼飯の間も寝ていた。寝飽きた。




 彼は突然むくっと上半身を上げる。右足は包帯を巻かれ固定されている。

 何となく窓の外の世界を眺めた。忙しなく往来する、国道を走る車両の数々。

 信号が赤になった。何となく赤の時間を計測。十八秒。青はそれより長かった。赤に変わり、目を閉じる。十八秒目前で開くと、ジャストタイムだった。

 人間は暇過ぎると奇行に走ることがあるという、どうでもいい事実が判明した。



 やはりこの計測結果は間違いではなく、彼はまたしても突然、部屋を見回し始めた。

 思えば個室である。両親も意外と気を使ってくれていたようだ。


 そういえば転んだ時、一緒に自転車登校していた友人が尽くしてくれた。遅刻しただろうに。対応も手際良く素早くやってくれた。


 看護師のおばさんは、無愛想な自分に何度も話しかけようとしてくれていた。その度にテキトーな返事。

 本当は無愛想と言うより人見知りなだけだ。それも悟られていた気がしないでもない。



 彼は何の変哲もない真っ白な天井を見上げた。

 怪我をすればすぐに病院。程度は大きいかもしれないが、なんとも先進国っぽい。

 高校も一応進学校に行けた。多分大学も行くことになる。進学校だから親からもバイトをしなくていいと言われ、親のスネの許容範囲をかじって生活している。


 何ともない顔で。


 涙も、欠伸の涙しか出てくることはない。相変わらず暇に変わりはないから。



 暇だ。

 これを暇と呼ばない者はいない筈。

でもそれとは対照的に、脳はまだ先程の奇行の様なことを思い出そうと息を荒げている。

 その度に涙ぐむ。


 今回は涙を出そうとした訳ではないのにベッドへと落ちた。そしてふと静寂の中で気がついた。


 暇過ぎるって、幸せ過ぎる。

 別段、輝かしい人生ではなかったが、輝かしい人生ではないだろうが。



「なんだ、俺。なかなか恵まれてんじゃん」

テーマは「幸せ」。自己投影かも。

自分は不幸だなんて思っても、世の中にはそれ以上に不幸な場合の人もいるもので、あまり口にしてはいけないかもしれませんね。

短編の方にも投稿した作品です。

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