ZZZ
ZZZ……。
睡眠時間、それは全生物にとっての至福。
それを味わう者がここに一人。大通りのど真ん中、一人の青年が仰向けになっている。
日中の日射しに照らされたコンクリートは熱を反射し、路上の温度は跳ね上がる。そんな所に焼肉の如く寝そべっているのだ。当然、そこを通りかかった人は皆その焼けた肉塊を避けるように素通りしていく。
見事なまでの放置。明らかに色のおかしい肉に食い付く者などおらず、遠慮したフリをして焦げるのを待つ。当たり前の処理。
実際、彼の周囲半径2メートルくらいには誰も近寄らない。少し離れた安全地帯から指を指して話題にする者も多い。ただ、立ち止まってまで彼に関心を示そうとする人が居ないのだ。
あのアブナイ奴とは何の関わりもありません、という訳である。いつヒョッコリ起き上がるかも知れない不発弾、触らぬ神に祟りなし。
青年が何をしているのかというと、至って単純だ。
夢を見ていたのである。
有り得ない事が簡単に浮かび、誰でも自分が主人公。浅い眠り、いわゆるレム睡眠時に見られる……方ではない。
有り得ない事が簡単に浮かび、誰でも自分が主人公。無垢なあの頃に見られるーー将来像の夢である。
しかし、あまりに寝過ぎた。いつから寝ているのかさえ忘れてしまった。いびき響かせ鼻提灯、絶賛阿呆っ面公開中だ。ヨダレはギリギリセーフ。
予想だが、まず間違いなく傍観者は笑っているだろう。しかし彼には周囲からの笑い声は痛くも痒くもない。そもそも聞こえていないから。
寝ていても日は昇ったんだろう。そしていつの間にか勝手に沈んでいるものだ。誰にも迷惑をかけずに済んでいる。充実した睡眠生活。そういえば起こそうとする人も居ないらしい。
その上、現実逃避にモッテコイ。あの頃の叶いもしない将来の「夢」を見て過ごす。
(馬鹿だったなぁ、何考えていたんだよ)
果たして心のその声は、誰に向けての事か。過去に向けた言葉の槍が、今の自分に向かって返ってくる。
「馬鹿だなぁ、何考えているんだよ……」
こんな所に寝っ転がって、周りの扉を全てを遮断して。起きない理由も解っていた。現実を見ずに済むからだ。寝たって死んだ訳じゃない。身体は確かに現実の熱を感じている筈。
みっともない。いい加減、目を覚まさないと。
大通りの青年が起き上がる。久しぶりの日差しに目が慣れない。周囲のざわめきが増す中、彼はその場に自分の足で立ち上がる。
金にもならない夢だと悟ったあの日、落書きのように思い描いていた夢を捨てた。「安定」と一緒に篩にかけたら、綺麗に失くなるような夢。大人に近づくにつれ、馬鹿になっていったのかもしれない。
寝ている場合じゃない。夢オチで終わらせない。
学校では教わらなかった夢の見つけ方。彼はまだ目が慣れていない中、手探りで進んでいく。
テーマは「夢」。ありそうで今までにないテーマでした。ここでの睡眠は諦めや現実逃避の類です。タイトルの読みは「ズズズ」。久しぶりの更新でした。