キャラバンの行き先
見渡す限りの砂漠。砂、砂、砂。
空は馬鹿の一つ覚えと言える程に蒼く澄みきっている。雲さえ嫌うこの一帯に太陽は無情にも照り続けるのみ。
これといった道はない。旅人は方角も定かでないまま進むのである。
旅人は列をなして歩いていた。キャラバンの様に見えるが、一人一人の顔を見てみるとその異様さが解る。
全員、同じ顔をしている。
行列は綺麗に一列に並び、同じ歩幅で前の人間に当たる事はない。先頭は遥か先であり、既にここからは見えなくなっている。後ろも同じであった。
その内の一人が後ろを振り返る。何処までも並ぶ自分。足は決して止めない。
無意味だと理解しながら、彼は記憶にほとんど残っていない旅路の始めの頃を懐かしむ。
「あの頃は楽だったよなぁ」
思わず漏れた愚痴。まさか“ここ”がこれ程までに厳しいとは思いもしていなかった。あの頃はオアシスを無邪気に思い描いて……。
記憶に薄いあの頃を考えても、釈然としない不満は拭えなかった。もう少し“ここ”に近い列の人を考えなければ、そしてその不満を口にせずにはいられなかった。
「あの時は歩き続けるのが楽しかったなぁ」
大きな溜め息。しかし列から外れると、この広大な砂漠では危険だ。結局は前を歩く人に従い歩幅を合わせる。
「ふざけるな。俺だって悩みも不安もある! お前と同じなんだよ……」
驚いた。返事が返ってくるとは思ってもみなかった。忘れていた。自分は常にその場その場を苦しみながらも歩いてきた。
そして今がある。“ここ”を歩んでいる。
その時、列の前を歩く人間がすぐ後ろを付いていく自分に振り返る。
「あの頃は楽だったよなぁ」
先程、自分が後列の者に発した戯言そのものだった。いつまでも後列の人間にこんな事を思いながら歩き続けるというのだろうか。
それは嫌だ。
彼は列から外れた。同時に前列を歩く自分の顔をした者達が消滅する。自分が先頭になったのだ。
一度立ち止まり、再び後列を振り返る。こちらには自分の顔をした者達が残っていた。彼の停止に合わせて足を止めてくれている。
「そうか、俺はお前達を背負って歩いていたんだな。お前達の為にも、俺は歩くよ」
歩みを始める。暫くするとまた前列に自分の顔をした人間の列が現れた。
その時、列の前を歩く人間がすぐ後ろにいる自分に振り返る。
「お前の為にも、俺は歩くよ」
前列の人間は自分の晴れ晴れとした顔をしていた。彼は笑みを浮かべて返事をする。
「当たり前だろ」
前の人は明らかに、返事に驚いた顔をしていた。
彼の歩みは止まらない。
テーマは「過去と未来」。少しネタ明かししますと、砂漠は生き難い現世。後列を歩く、多くの過去の自分の為にも、主人公は未来を変えたんですね。辛かったあの時を乗り越えた自分の為にも生きる。この行列はたった一人の孤独な旅なのです。