お嬢様と会話
グランツ家的にはきっと、わたしは使い捨てのメイドとしか思っていないのだろう。公爵家という大きな貴族の家だからこそ、人を使い捨てにできる。わたしにはちょっと理解に及ばない領域だ。
数日。数週間。
エリザベートお嬢様からのヘイト役になれればきっとそれでいいのだろう。それでわたしが使えなくなったらポイッと捨てる。
今ままでもそうで、今回もそう。
「あなた、お名前は?」
「リディア・シュメルツと申します……」
「リディアと言いますのね」
「はい。リディアです。リディアとお呼びください」
「……それはわたくしが決めることですわ。しれよりも、あなた、メイドと言う割にはいろいろと小さいですわね」
わたしの頭の上からつま先までつーっと視線を見ながら、お嬢様はそんなことを言う。
喉元まで「なんだよ。お前に言われたくない。わたしと同じだろ」という言葉がでかかったが、そんなこと言ってしまえばお嬢様の反感を買うことは明白だった。
なので、グッと堪える。
感情を抑えられずに、昂らせれば、退職に追い込まれ、野垂れ死ぬのはあまりにも無惨だ。
「……お嬢様と同い年ですので。このくらいは平均かと思いますよ」
「あら、どういう冗談ですの!? わ、わたくしと同い年ですの!? 子供じゃありませんこと。そんな子供がわたくしのお世話などできますの?」
「せ、精一杯頑張ります」
「そんなことは誰でも言えますわ。行動で示してくださいな」
「こ、行動で……ですか」
「ええ、今までわたくしに仕えてきたメイドは誰もかれも使えませんでしたの。熱々のお茶を所望しましたのに温いお茶を出してきたり、わたくしのドレスの裾を0.5秒遅れて持ち上げたり、この縦ロールを一巻少なくしたり、散々でしたわ。はあ、思い出すだけでイライラしてきますわね」
とんとんとんとん、と指を叩く。
露骨にイライラしている。
ここでお嬢様への対応を間違ってしまえば、お嬢様の感情を爆発させることになるという恐怖が押し寄せてくる。頭を抱えたくなる。
これからわたしはこのお嬢様の相手をしなければならないのか。憂鬱であった。
やっていけるのか、という不安も大きくある。
とにかくそういうわけで、わたしは悪女、エリザベート・グランツ様の専属メイドとなった。




