メイドとして
わたしは、グランツ公爵家にメイドとして仕えることとなった。
年齢にして十歳のこと。
お偉い様はもちろん、平民としても早い就職であった。
が、文句は言えない。
行き場を失っていたわたしに職と住処を与えてくれた。命の恩人だ。ここに拾われていなかったら、わたしは死んでいた。
そんな未熟なわたしは、メイドとしてのイロハを叩き込まれた。
元々はメイドとは縁もゆかりも無い生き方をしていた。だから、苦労してしまう。だが、この苦労もすべては自分のため。生きていくためには必要不可欠なことだった。そして、なによりもあの過酷な環境に比べればこれくらい生温い。そう思うと、やってやろうと思えた。
とある日、わたしは噂を耳にした。
グランツ家の長女、エリザベート・グランツ様についてだ。どうやら我が家のお嬢様はこれまで何人ものメイドを解雇してきた、と。
元々、彼女はワガママお嬢様として名高かった。悪女、と評されることさえあった。
グランツ家という家に長女として生まれてきた。長年子供に恵まれなかったこともあって、エリザベート様が生まれてからはさぞ大層甘やかされ、育ってきた……。だから、欲しいものは何でも手に入ったし、自分に都合の悪いものは都合のいいように捻じ曲げられてきた。先輩メイドから事実としてそう話を聞いていた。
だから、その噂は多少歪曲されていたとしても、大筋のところでは間違っていないのだろう。
できるだけ、関わらないようにこのお屋敷で仕事をしよう。解雇されたらたまったもんじゃない。
そして、月日は流れる。
メイド長による、キツい研修は終わった。
「それでは、リディア・シュメルツ。本日付けでエリザベートお嬢様のお付のメイドとしての任を与える」
「え、わたしがエリザベートお嬢様にお仕えするのですか……?」
「そう言った」
こうして、わたしはエリザベートお嬢様の専属メイドの任を受けた。
近くにいた先輩メイドからは肩を叩かれる。
「ドンマイ。精々怒らせないように気をつけるんだな」
「……すみません。噂で聞いていたのですが、エリザベートお嬢様は幾度となくメイドを解雇させてきた、とお話伺ったのですが」
「まあ概ね間違ってない。正確には解雇ではないんだけどな。気に入らないと、虐めに虐めて、退職にまで追い込んでたって話だよ。実際、エリザベートお嬢様の専属になったメイドはどいつもこいつも一週間もせずに辞めたったよ。逃げ出したやつもいたね」
「そうですか……」
どうせ、わたしもすぐにいじめられるんだろうな。果たしてわたしはどれだけ耐えられるのだろうか。耐えないと野垂れ死ぬだけなので、耐えなきゃいけないのだが。




