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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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007 マリアの革命

「なんという美味(びみ)! マリア、この〈コーラ〉という飲み物は何ルクスで買えるんだ!? 5000ルクスあれば足りるか!?」


 レオンハルトはコーラを一気飲みすると、大興奮でまくし立てる。

 それから、炭酸飲料にはつきものの盛大なげっぷを放った。


「し、失礼した……!」


 げっぷが恥ずかしかったようで、レオンハルトの顔が真っ赤になる。

 その姿が可愛らしくて、私は「あはは」と陽気に笑った。


「それでマリア、このコーラは何ルクスなんだ!? 5000ルクスで足りるのか!?」


「1ルクスです」


「え?」


「このコーラは1本1ルクスで買えます」


「なん……だと……!? これまで飲んだありとあらゆる飲み物よりも美味しい、この極上の飲み物がたったの1ルクス……!?」


「はい。〈万能ショップ〉を使えば1ルクスで買えます」


「信じられん……! なんという力なんだ……!」


 レオンハルトが崩れ落ちるようにソファへ腰を下ろした。

 それに合わせて、私も微笑みながら座った。


「これでデモンストレーションは十分ですよね。それでは、本題の商談に入りましょう!」


「いや、商談をする必要はない」


 今度は私が「え?」と耳を疑った。


「君の力は本物だ。疑いの余地がない。引き受けよう!」


 なんと、始まる前に商談が成立してしまった。


「お待ちください! ひとまず内容をお聞きください!」


「言わなくてもわかっている。コーラを広めたいのだろう? さしずめ、俺や各都市の商業ギルドに卸して一気に流通させる魂胆だろう」


「申し訳ございません、レオンハルト様……まったく違います……!」


「んがっ!?」


 レオンハルトがのけ反った。


「たしかに、コーラの普及もいずれは行いたいと考えています。しかし、今はそのときではありません」


「ほう?」


「コーラは最高に美味しい飲み物ですが、普及させるのであれば、その前に口腔ケアの水準を引き上げる必要があります。なぜなら、コーラは虫歯になりやすい飲み物だからです」


「虫歯だと……!?」


 レオンハルトの顔が引きつった。

 無理もないことだ。


 この世界において、虫歯は最悪の病気である。

 日本のように歯科医院で快適な治療をして「はい、終了」とはならない。

鉗子(かんし)」と呼ばれる医療用のペンチで歯を抜く必要があるのだ。

 もちろん麻酔などしないため、これには激痛を伴う。

 また、衛生環境の悪さに起因する感染症の危険も高い。


「ということで、レオンハルト様にはこちらを差し上げます」


 私は口腔ケアに必要なものを一式用意した。

 歯ブラシ、舌ブラシ、歯磨き粉、デンタルフロス。

 あと、オマケで洗口液も付けておいた。


「なんなんだ……これらは……!?」


「そのご説明は商談のあとにいたします! それで、私がレオンハルト様に提案したいことなのですが――」


 長い前置きの末、私は本題に入った。


「――この世界に郵便革命を起こしましょう!」


「郵便……?」


「例えば、レオンハルト様が国王陛下と謁見したい場合、どうされますか? いきなり会いには行きませんよね?」


「当たり前だ。まずは使者を通じて陛下に拝謁の栄を賜る」


「つまり、書状をお送りになるわけですよね?」


「そうだ」


「郵便というのは、そういった『相手に文を届ける行為』とお考えください! 現在、この習わしがあるのは貴族だけですが、これを一般化……すなわち庶民の方々にも普及させたいのです!」


「庶民がいちいち文を送り合うのか? あり得ないだろ」


 レオンハルトが鼻で笑い、さらに続けた。


「安物の布紙ですら、庶民にとっては結構な値が……あっ」


 どうやらわかったようだ。

 私はニヤリと笑った。


「ユニークスキルの力があれば、布紙や羊皮紙は必要ございません!」


 私は〈万能ショップ〉でプリンター用の印刷用紙を購入した。

 1セットで500枚もある。


「なんだ、この紙は……! すごい……! 絹のような触り心地だ……! それに薄くて大きさが統一されている……!」


「ちなみに、お値段はたったの8ルクスです」


「8ルクス!? それは単価か?」


「いえ、1セットの価格です」


「この枚数で8ルクスだと!? 1枚1ルクス以下じゃないか!」


「厳密には1枚あたり0.016ルクスです。おそらく適当な雑草でもその10倍以上の価値になります。ですから、紙のコスト自体はまったく問題ございません。どちらかといえば、紙そのものよりも、それを届ける人手が問題になります」


「なるほど、そこで俺の力が必要になるわけか」


「その通りです! レオンハルト様の力で、公爵領の至るところに郵便ポストを設置し、紙を届けるための組織〈郵便局〉を設立しましょう! 具体的な計画は既に考えてあります!」


 私は懐から計画書を取り出した。

 昨夜のうちに用意しておいたものだ。


「どれどれ……って、マリア、そなたの文字は驚くほど美しいな。凄まじい整い具合だ。とても人が書いたものとは思えん……!」


「さすがはレオンハルト様! 計画書の文字は手書きではありません! タイプライターで打ちました!」


「タイプ……ライター……? 打つ……?」


「それに関しては別の機会にお話しするということで……いかがでしょうか!? 私の計画書は!」


 計画書には、具体的な郵便の方法や想定される利用ケースを記してある。

 例えば郵便の運用で大事になるのが住所だ。


 この世界は、基本的な文明水準が中世ヨーロッパと同等である。

 そのため、地球のような番地単位の住所が存在していなかった。

 だから、計画書には住所をどう決めるかも記しておいた。


「なるほど……上下水道を整備する際に作った地図を活用するわけか」


「はい! 地図を使って住所を決め、標識を立てて番地が一目でわかるようにします! そうすれば、郵便業者が迷わなくて済みます!」


 上下水道を整備する際、すべての地域で地図が作られた。

 地図といっても、正確に測量したわけではなく概略図だ。

 もちろん〈ドーフェン〉のような小さい町にも存在している。


「この〈手紙〉という概念も面白いな。紙のコストが大幅に下がるから、遠くの人間と気軽に紙でのやり取りを楽しめるわけか」


「はい! あと、掲示板を介して見知らぬ相手と文通するのも面白いと思いませんか? 例えば私たちが街を歩けば誰もが『貴族』として接してくるわけですが、文通であれば、貴族であることを伏せることも可能です!」


「おお! それは面白いな! 庶民の感覚を肌で体感できるわけか!」


「そして、庶民はこれまでの貴族特権であった『使者を使った書簡でのやり取り』を楽しめます! 絶対に流行りますよ!」


「うおおおおおおお! すごい! 最高のアイデアだ! 郵便革命……いいじゃないか! 是非ともやらせてくれ!」


 レオンハルトは立ち上がって右手を差し出した。


「ありがとうございます! レオンハルト様!」


 私はその手に応じて、レオンハルトと固い握手を交わした。


「それでは、マリア、詳しい話を詰めようか!」


「はい!」


 こうして、公爵領に郵便局が誕生した。

 まずは大都市から始めて、徐々に拡大していく。

 遅くとも数ヶ月で公爵領全土に郵便網が整備される予定だ。


 郵便事業ではコストの低さが重要である。

 そこで、印刷用紙は1セット10ルクスで販売することにした。

 1セットにつき2ルクスしか利益が出ないが、それでも問題ない。

 手紙の文化が普及すれば、日に数百~数千セットが売れるはずだ。

 もっと売れる可能性だってある。


 また、印刷用紙と一緒に筆記具も販売することにした。

 既存の羽根ペンと印刷用紙では相性が悪く、文字が書きにくいからだ。

 ボールペンを用意して、1本5ルクスで販売することにした。

 仕入れ価格は1本1ルクスなので、1本につき4ルクスの収益になる。


 おそらくこちらが収益のメインになるだろう。

 というより、実際にそうなった。


 レオンハルトが想像以上に乗り気だったからだ。

 その日に印刷用紙を1万セットとボールペンを1万本買ってくれた。

 手紙が普及すれば、紙とペンはもっと売れるだろう。


 私の町おこしは、極めて順調に進んでいた。


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