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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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052 伯爵の依頼

 驚いたことに、来訪者はローランド以外にもいた。

 ローランドと同じ馬車から、息子のライルが現れたのだ。

 ひとまず丁寧な挨拶を交わすと、私たちは役所に入った。


 その足で向かったのは、町長室ではなく応接間だ。

 役場からの格上げに伴い新設された部屋である。


「それで、ご用件というのは……?」


 私たちはローテーブルを挟んで向かい合う。

 上座――入室者から見て右側――のソファには私が座った。

 その間、ライルを注視していたが、彼は一瞬たりとも表情を変えなかった。

 ローランドがそばにいるとしても、普段なら多少の不快感を示すはずだ。

 それがないということは――


(よほど大事な頼みごとみたいね)


 その予感は当たっていた。


「率直に申し上げます。〈モルディアン〉を助けてください」


 切り出したのはローランドだ。


「助けるというと……?」


 私は首を傾げた。

 扉の前に立っているルッチも頭上に疑問符を浮かべていた。


「マリア様であれば正確に状況を把握していると思いますが、〈モルディアン〉の経営は苦しい状況です。ショッピングモールが重石となり、都市の財政を逼迫するだけでなく、市民の不満を強めています」


「存じております」


 多忙な日々を送る私だが、〈モルディアン〉の監視だけは徹底していた。

 新聞があるため、僻地の〈ドーフェン〉ですら数日で最新情報が届く。

 それに加えて、一般公開されている財務報告書にも目を通していた。


 だからこそ、ローランドの言うことが本当だとわかる。

 現在の〈モルディアン〉は、極めて苦しい状況に追い込まれていた。


 通常であれば、すでに国王からお叱りを受けているだろう。

 特例的に見逃されているのは、モールが新しい試みだからだ。

 王家が関与していることも、理由の一つになっているだろう。


 とはいえ、それにも限界がある。

 次かその次の大評定で議題に上がるだろう。

 そうなると、市長のライルだけでなくローランドの責任問題にもなる。


「マリア様には――」


「その前に……」


 私はローランドの言葉を遮り、ルッチに目配せした。

 状況を察したルッチは、静かに頷いて退室する。


「人払いをさせていただきました。ハンバーガーの調理環境をご提供する案につきましては、私とレオンハルト様だけの秘密ですので」


 ローランドは「恐れ入ります」と頭を下げたあと、改めて話した。


「誤解がないようにご説明いたしますと、私どもはマリア様のご提案を受けたいと考えていました。しかし、〈モルディアン〉の実権はエステル様が握っており、エステル様の承諾を得られなかったため、断ることとなりました」


「レオンハルト様からもそのように伺っていますのでご安心ください」


 もっとも、レオンハルトから聞かずとも察していた。

 ローランドの性格上、あの提案を断ることなど絶対にないからだ。

 息子と違ってプライドがないため、利用できるものはすべて利用する。

 むしろ、提案を突っぱねたエステルに対して激怒したに違いない。


「ただ、エステル様が実権を握っている以上、私が協力できることはないと思うのですが……」


 私が可能な限り〈モルディアン〉に干渉しなかった理由がそれだ。

 生まれ故郷の市民が苦しむのを眺めるのは忍びないため、できれば助けてあげたい。

 だが、私が出張っても状況を悪化させる可能性が高かった。


 エステルが的外れな理由で私を敵視しているからだ。

 彼女は私のことを恋敵だと思い込んでいる。


「今まではそうだったのですが、私の愚息がやってくれました!」


 ローランドは声を弾ませ、ライルの髪をくしゃくしゃにする。


「といいますと……?」


 私はライルを一瞥した。

 父親に褒められて嬉しそうだが、喜びきれていない。

 純粋に嬉しいのではなく、他の感情も含まれているのだろう。


「エステル様から都市経営の実権を取り戻すことに成功しました!」


「実権を取り戻した? どういうことですか?」


「エステル様から契約解除の合意を取り付けたのです!」


 私は反射的に「おお!」と感嘆した。

 日本と同じで、この世界でも契約の解除は難しいのだ。


 原則として、契約は双方の合意に基づいて締結される。

 ゆえに、満期以外での解約にも、双方の合意が必要になる。

 契約内容に解約条項が含まれていれば別だが、今回のようなケースではまず含まれていない。


 だからこそ、ローランドも声を弾ませているのだろう。

 ライル史上最大のファインプレーである。


「すごいじゃないですか、ライル様!」


 私はライルを見た。


「まあ……」


 ライルはそれだけしか口にしなかった。

 契約解除の合意を得ることの大変さを理解していないのだろう。

 もしくは、私に頼ることが不本意なのかもしれない。

 父親と違い頭が悪くてプライドが高いため、どちらもあり得る。


「すでに解約の合意書も交わしており、エステル様は形だけの副市長になりました。〈モルディアン〉の経営権は私にあります!」


 ローランドが上機嫌で話す。

 市長はライルなので、本来なら経営権はライルにある。

 ――が、もはや息子には何もさせないつもりのようだ。


「把握しました。それで、私はどういった形でご協力すればよろしいでしょうか? ハンバーガーの調理環境であれば、即座にご提供する用意がございますが……」


 ローランドは「いえ!」と首を振った。


「もっと直接的なご支援を賜りたく存じます!」


「直接的な支援?」


「私の愚息に代わって〈モルディアン〉を経営してください!」


「はい!?」


 さすがに耳を疑った。


「もちろん〈モルディアン〉に戻ってきてほしいと頼んでいるわけではございません! 今のマリア様は〈ドーフェン〉の町長ですし、この町を放棄することは望まれていないと存じます! ですから、ライルにご指示いただきたいのです! 方法はマリア様にお任せいたします!」


「そういうことですか」


「お恥ずかしながら、我々の力では〈モルディアン〉を再建できる自信がありません。ここまで状況が悪化した以上、ハンバーガーの調理設備を導入したところで効果は薄いと思います」


「同感です」


「ですが、我々にはそれ以上の案がございません。ですから、マリア様の知恵をお貸しいただきたいのです。どうか〈モルディアン〉を立て直してください! お願いします!」


 ローランドが深々と頭を下げる。


「お願い……します……」


 ライルも悔しそうな顔で頭を下げた。


「わかりました。協力させていただきます」


「本当ですか!?」


「〈モルディアン〉は大都市ですし、市民の気質や地理も把握しています。立て直すこと自体はそう難しくありません」


「なんと!?」と驚くローランド。


 ライルも「本当か!?」とびっくりしていた。


「はい。自信はあります。ですが、行動を起こす前に大事なことを二点確認させてください。その回答次第で、再建の成功率が大きく変わってきますので」


「何なりとご質問ください!」


「では、一点目。ショッピングモールに入っているお店との契約形態を教えてください。〈モルディアン〉の財務報告書を読みましたが、モール内のお店に出店支援金を支払っていますよね? 不要なのでカットしたいです」


「ご安心ください! 契約には解約条項が盛り込まれておりますので、任意のタイミングで解約することが可能です! 違約金は発生しますが、必要であれば〈リベンポート〉が負担いたします!」


 私は「わかりました」と頷いた。

 速やかにモールを庶民向けに変更できるのは大きい。

 再建の難易度が大きく下がった。


「では、二点目の確認です」


 私はそこで言葉を区切ると、ローランドの瞳を見つめながら言った。


「エステル様を切り捨てることはできますか?」


「「え?」」


 ローランドとライルが同じ反応を示す。

 二人とも驚愕していた。


「どういう形であれ、私が関与するとなれば、エステル様の反発は避けられません。ですから、エステル様には〈モルディアン〉を去っていただきます。国王陛下には貸しがございますので、大きな問題にはなりません。しかし、王家と伯爵家の関係は少なからず悪化するでしょう。その覚悟はありますか?」


「そんなこと……」


 ライルが言い淀む一方――


「覚悟はございます! エステル様を切り捨てましょう!」


 ローランドは即答だった。

 私は笑みを浮かべ、ライルは「父上!?」と声を荒らげた。

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