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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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051 銀行

 その日、〈ドーフェン〉はいつになく賑わっていた。

 町外れの空き地で、多くの町民や観光客が私を眺めている。

 私の左隣には、金貨の詰まった木箱が大量に積まれていた。


「皆さん離れてください! 建てますよー! いきますよー!」


 私は左手で木箱に触れながら〈万能ショップ〉を発動する。

 次の瞬間、目の前に大きな建物が誕生した。

 外観は他の建物と大差ないため、皆はそれほど驚いていない。


「まだですよー! まだですからねー!」


 私は建物に入り、必要な設備を購入していく。

 家具やエアコンに加えて、巨大な金庫も設置する。


「できました! こちらが銀行です!」


「「「おお!」」」


 外に出て宣言すると、皆が歓声を上げた。


「おい、マリア! 銀行って何だよ!」


 生意気な口調で駆け寄ってきたのはベンツだ。

 少し前に誕生日を迎えて、四歳児は卒業していた。


「銀行はお金を預ける場所だよー」


「なんでお金を預けるんだよ! 自分で持ってりゃいいじゃねぇか!」


「それがわかるようになったら結婚してあげてもいいよ?」


 私がニヤニヤしながら返すと、ベンツは頬を膨らませた。


(一応、世界初の銀行になるのかな)


 この世界には銀行が存在していない。

 しかし、預金自体は一般的な行為として認知されていた。


 都市部であれば、商業ギルドや役所に預けることができる。

 〈ドーフェン〉の収入も、大部分を〈ルインバーグ〉に預けていた。


 地球における銀行との違いは、預かったお金の扱いだ。

 この世界の預金は、ただただお金を預けるだけの行為である。


 預かる側も、そのお金を投資や融資に回すことはない。

 ゆえに、この世界ではお金を預けるのに手数料が発生していた。


 〈ドーフェン〉の銀行も、当面の間はただの保管所として運営していく。

 預かったお金を運用するには、利用者の理解を深める必要があるからだ。


 また、現状では投資先や融資先が存在していない。

 庶民の間に「借りたお金で起業する」という概念がないからだ。

 そのため、お金を運用したくてもできないのが実情だ。


 地球の銀行と同じ役割を持たせるには制度設計が必要になる。

 それには膨大な時間を要するし、なにより優先度が低い。

 にもかかわらず、銀行を建てたのは、多くの要望があったからだ。


「ありがとうございます、マリア様! これでお金の管理が楽になりました!」


 バイホーンが近づいてきた。

 銀行――厳密にはお金の保管所――を要望してきたうちの一人だ。


「いえいえ! いずれは〈ルインバーグ〉に預けている〈ドーフェン〉のお金を町で管理したいと思っていたので、私にとっても必要な施設でした! それに、いつまでも外に金庫を積んでいるわけにもいきませんから!」


 その日のうちに、私は銀行の営業を開始した。


 ◇


 ハンバーガーの普及以降、私の活動は地味だった。

 急速に発展する〈ドーフェン〉を維持するのに必死だったからだ。


 上下水道の整備と〈万能ショップ〉のおかげで、私は皆に好かれている。

 いや、神格化されていると言っても過言ではないだろう。


 そのため、〈ドーフェン〉で悪事を働く者は皆無に等しかった。

 稀にスリが発生するけれど、衛兵が対処するため大事には至らない。


 それでも、急速な発展には問題がつきまとう。


 特に多いのが商人同士のトラブルだ。

 異なる大貴族に属する商人たちが頻繁に揉めていた。

 商習慣の違いが主な原因だ。


 そういった問題が起こるたびに、事情聴取や仲裁を行っていた。

 また、ルールを明文化するなどの対応策も講じた。


 こうした問題が一段落した、ある日の朝――


「おはようございます!」


 私は役所に顔を出した。

 人口の増加に伴う建て替えにより、役場ではなく役所になった。

「役場」と「役所」の違いは規模のみで、大きい方が役所だ。


「「「おはようございます!」」」


 官吏たちが元気よく返事をする。

 町長に就任した当初は10人弱だったが、今では50人を超えていた。

 銀行で働いている者や休暇中の人間も含めると、その数は80人に達する。


「マリア様、今日もお綺麗ですね!」


 などと言いながら駆け寄ってきたのはルッチだ。

 〈ドーフェン〉の色男は、町が拡大しても相変わらずである。


「おはようございます、ルッチさん。私の今日の予定はどうなっていますか?」


 私はルッチに会釈しながら町長室に向かう。

 ルッチは懐から手帳を取り出して、私のスケジュールを確認する。


「今日はローランド伯爵との面会が入っています!」


「ああ、そういえば今日でしたか」


 約2週間前、ローランドの使者がやってきた。

 〈モルディアン〉について相談したいことがあるそうだ。

 詳細は会ったときに話すとのことだった。


「到着まで時間がありそうだし、デートしましょう! デート! マリア様との公務デート……燃える!」


 ルッチがわけの分からないことを言っている。

 私は「ふっ」と笑った。


「ルッチさんって、本当に女たらしですよね。あなたぐらいですよ、相手が私であってもそのような軽い調子で誘ってくるのは」


 私は町長室に入ると、リクライニングチェアに腰を下ろした。

 くるりと一回転してから、背もたれに体重をかける。


「だって、他の女とはデートしたっすから! まぁデートだけじゃないっすけど? ふふふ」


 私は呆れ顔でため息をついた。


「ルッチさんがもう少しポンコツだったら、迷うことなくクビにできるんですけどね」


「いやいや、俺ほど優秀な人間、そうはいませんよ!」


「だから切りたくても切れないんですよねー」


「酷っ!」


 私は「あはは」と笑った。


 実際、ルッチは見た目に反して優秀だ。

 最初はただの御者だったが、今では秘書も務めている。

 何かと器用な男で、御者や秘書以外の業務もそつなくこなす。

 実務能力を高く評価した私は、彼の給料を通常の倍に設定していた。

 それでも安すぎると思えるほど、ルッチはよく働いている。


「真面目な話、俺はマリア様が思うほど女癖が悪くないんすよ?」


 ルッチはソファに寝転んだ。


「そうなんですか?」


「だって俺、浮気は絶対にしないですから! それに結婚している女には手を出さない! あと、ちゃんと遊びの関係だって相手も了承していますから!」


「なるほど」


 ルッチの言っていることは本当だ。

 実際、彼は浮気や不倫は絶対にせず、円満に関係を解消している。

 別れた相手が怒って報復に来る……という場面は見たことがない。


「ですから、マリア様も俺と試してみましょうよ! 絶対に満足させますから!」


「そこまで言うなら……」


「マジっすか!?」


「なんて、言うわけないですよねー!」


「ちょっと! 今、期待したじゃないっすか!」


「あはは。まあ、相手の女性に嫌な思いをさせていない点は素敵だと思います。ですが、私は相手を取っ替え引っ替えするような行為には賛同できませんね」


「マリア様はお堅いなー!」


 私たちが雑談に(ふけ)っていると、誰かが扉をノックした。


「マリア様、ローランド様がお越しになりました!」


 扉の外から女性の声が聞こえる。


「わかりました」


 私は立ち上がり、ドレスに乱れがないことを確認する。


「行きましょう!」


 ルッチは元気よく「はい!」と答え、扉を開けた。


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