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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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047 一周年記念

 私が〈ドーフェン〉の町長に就任してから1年が経過した。

 そんなある日――


「まさか、またここに入れる日が来るとね……」


 私は、王都〈ノヴァリス〉にいた。

 王都には、町長になってからも何度か訪れている。

 しかし、王城に入ったのは極刑を言い渡された日以来だ。


 もちろん、今回は公務で来ていた。

 町長就任1周年を記念して国王に呼び出されたのだ。


 レオンハルトから、国王は私に好意的だと聞いている。

 ライルの仕組んだ冤罪の件もお見通しである、と。

 これまでの状況を見る限り、それは間違いないだろう。


 とはいえ、緊張を抑えることはできなかった。

 また不意打ちの極刑が待っているのではないだろうか。

 そんな不安を払拭しきれない。


「国王陛下! マリア・ホーネット様をお連れいたしました!」


 衛兵が謁見の間の扉をノックして、大きな声で告げる。

 返答の代わりに扉が開いた。


「久しぶりだな、マリア」


 赤い絨毯の伸びる先に、ガブリエル国王がいた。

 玉座に腰を据え、私に向かって微笑んでいる。

 大貴族の姿はなく、他には約20名の衛兵がいるだけだった。


(今回は極刑を言い渡されずに済むわね……)


 ほっと安堵する。

 大貴族がいないのであれば、重大な決断が下されることはない。

 国王の微笑みも偽りのないものだと確信した。


「失礼します!」


 一礼して中に入り、赤い絨毯を進んで国王の前に向かう。

 絨毯の端……国王の数メートル手前に着くと、跪こうとした。


「立ったままでいい」


 国王がそう言ったため、「はい」と返し、膝を伸ばす。


「お久しぶりでございます、国王陛下……!」


 国王は「うむ」と頷いた。


「そう緊張しなくてもよい。事前に伝えているとおり、そなたの町長就任1周年を記念して場を設けた。ただの雑談だと思ってもらえればいい」


「かしこまりました……!」


「そなたの功績を考えれば、盛大な祝宴を開いて然るべきなのだが、残念ながらそうもいかない。だから、このような形にさせてもらった」


「承知しております」


 形式上、私は不貞行為で有罪判決を受けている。

 国民には知らされておらず、貴族は誰一人として信じていない形骸化したものだが、それでも極刑を言い渡された事実に変わりはない。

 この冤罪を理由に〈ドーフェン〉の町長に就任したため、祝宴を開けないという国王の意見は妥当だった。

 むしろ、こうして謁見の間に招かれただけでも奇跡と言える。


「そなたの活躍は、レオンハルトから聞いたり新聞を読んだりすることで把握している。それに、レオンハルト経由で便利なアイテムをもらい、優れた献策をされた。いつも世話になっておる」


「恐悦至極に存じます……!」


「わずか10歳にして上下水道の整備を主導した頃から、そなたは異彩を放っていた。その才覚が、ユニークスキルを獲得したことで覚醒した。おかげで、〈ドーフェン〉の発展は目覚ましいものがあるのだろう?」


「私の力というよりユニークスキルの力ではございますが、この1年で急速に発展しております」


 全国の商人が集まったことで、〈ドーフェン〉の発展に拍車がかかった。

 観光客や出稼ぎの商人も含めた人口は、常時2万人を超えている。


 移住希望者も殺到しており、町民の数も約2倍に増えた。

 もちろん、すべての移住者が厳しい移住条件を満たしている。


「もはや『町』と呼べない規模になっていると聞く。わしも現地に行って自分の目で見たいが……立場上、どうしても難しいものがあってな。そなたにかかっている冤罪の件を差し引いても、片田舎の町にわざわざ出向けば、大貴族の反発が想定される」


 国王の口から「冤罪」という単語が出て驚いた。


「存じております。ですが、ご安心ください。私のユニークスキルを使えば、現地に行かずとも町の様子を見ることが可能です」


「なんと!?」


 国王が前のめりになる。


「こちらが、それを可能にするアイテムでございます」


 私は懐からスマートフォンを取り出した。

 この世界では電波が入らないため、通話やインターネットは使えない。

 それでも、カメラや電卓などの初期アプリは使用可能だ。


「なんじゃ? それは!」


 国王が好奇心に満ちた目でスマートフォンを見つめる。


「スマートフォン……略して『スマホ』と呼ばれるアイテムでして、機能については口頭で説明するよりご覧いただくほうが早いかと! 近づいてもよろしいでしょうか?」


「かまわぬ」


 私は「失礼します」と一礼して、国王の隣まで移動した。

 そこで体をかがめて、スマホの画面を見せる。


「このスマホには、録画機能が備わっておりまして――」


「録画とは何じゃ?」


「えっと……出来事をそのままの姿で記録することです。吟遊詩人が歌を聞くと情景が頭に浮かびますが、スマホの録画機能では目で確認できます」


 私は動画フォルダを開いて、町で撮影した映像を流した。


『え? 俺の姿がその小さい機械に記録される? マジっすか!?』


 画面にルッチの姿が映る。


『そうです! あと、記録した動画は国王陛下にご覧いただく予定なので、言葉遣いには気をつけてくださいね、ルッチさん!』


 さらに私の声が聞こえたところで、国王は「ぬおお!?」と驚いた。


「なんじゃこれは!?」


「これが録画機能……つまり、記録された動画でございます! 動画は『映像』ともいい、記録することを『撮影』ともいいます!」


 こうして説明している間にも、スマホの画面に町の様子が映る。


『国王陛下にメッセージ? い、いつもお世話になっております! ……って、これだとおかしいか、なはは!』


『陛下ー、俺はベンツって言うんだけど、母ちゃんが陛下のこと褒めてたよー! あとマリアはいい奴だからよろしくなぁ!』


『こら、ベンツ! 申し訳ございません、陛下! 子供の()(ごと)ですので、どうかご容赦くださいませ……!』


『国王陛下にメッセージだぁ? 王都の〈フランクリンリン〉って酒場は俺のダチがやってんだぁ! 美味い酒があるから陛下も飲んでくれよなぁ! がははは! うぃー、昼間から飲む酒はうんめぇ!』


 私は画面をタップして、動画を停止させた。


「これが〈ドーフェン〉の町並みであり、町民や観光客から陛下への“生の声”でございます!」


「おお……! おおお……!」


 国王は感動のあまり目に涙を浮かべていた。


「すごいのう……! こんなことが可能とは……!」


「こちらのスマホには、いろいろな動画が保存されています。主に〈ドーフェン〉の様子を撮影したものですが、他にも〈ノヴァリス〉までの道中に立ち寄った各都市の様子も録画しています。使用方法をお教えいたしますので、よろしければ……!」


「こ、これをわしにくれるのか!?」


「もちろんでございます!」


 私はスマホを国王に渡し、動画の視聴方法を教える。


「ガラスの板に映像が浮かんでいるだけでも不思議なのに、指で触れて操作できるのはもっと不思議じゃな」


「同感です!」


 しばらくの間、国王は動画の視聴に耽っていた。

 バッテリーの残量は100%を維持したまま変動しない。

 オプションで無限化しているからだ。


「ふと思ったのじゃが、どうして動画を撮影したのじゃ?」


 唐突に、国王が動画の再生を停止した。


「といいますと……?」


「そなたがスマホを取り出したのは、わしが〈ドーフェン〉に行きたくても行けないと話したからじゃ。そして、スマホにはそれを見越したかのように、町の風景やわしに対するメッセージを記録した映像が保存されておる」


 私は「はい」と相槌を打つ。


「つまり、そなたは町を発つ前から、今の展開を想定していたことになる。どうしてそんなことが可能なのじゃ? 前々から疑問に思っていたが、そこまで先を読めるのもユニークスキルの力なのか?」


 国王は不思議そうに私を見る。

 対する私は、笑みを浮かべて答えた。


「それは誤解でございます、陛下」


「誤解じゃと?」


「陛下がおっしゃるような動画を撮影したのは、ただ陛下にお喜びいただければと考えたからにすぎません。陛下のお立場と私の身分を考慮し、何が最もお喜びいただけるかを検討した結果、スマホという答えに辿り着きました」


「すると、今の展開自体を想定していたわけではなかったのか」


「はい。ですが、まったく想定していなかったと言えば嘘になります」


「どういうことじゃ?」


「私は常にさまざまなケースを想定し、それに対する準備をしています。つまり、明確に先を読めているのではなく、どう転んでも大丈夫なように備えている……というのが実情です。その備えが人よりも少し多いから、先が読めているように感じるのだと存じます」


「なるほどのう。やはり非凡の才という他ないな……」


 国王が「恐れ入った」と笑う。


「ありがとうございます!」


「さて、今回はこのくらいにしておこう」


 国王が話を切り上げに入る。

 私は「はい」と頷き、赤い絨毯の端まで戻った。


「マリア、今後は遠慮することなくここへ来なさい。そなたとはもっと話をしたいし、ユニークスキルでしか買えないアイテムを見せてもらいたい」


「かしこまりました! それでは、失礼いたします!」


「うむ」


 国王が微笑む。

 だが、次の瞬間――


「んぐっ!?」


 突然、国王が苦しそうに胸を押さえた。


「「「陛下!?」」」


 私だけでなく、衛兵も驚く。


「マリ……ア……助け……」


 国王は私に手を伸ばしながら、その場に倒れ込んだ。

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