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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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041 商談

 バイホーンは真剣な表情で続きを話した。


「マリア様なら察しておられると思うのですが、〈ドーフェン〉の人気化に伴い、主要都市の収入が減少しています。それは当ギルドだけでなく、〈ルインバーグ〉や〈アルケオン〉の商業ギルドでも同様です」


 その件は私も把握している。

 黙っていたが、「どうにかしたい」と思っていた。


「また、〈ドーフェン〉は長らく観光とは無縁の田舎町だったこともあり、町民たちは商売に慣れていません。商業ギルドも存在していません。マリア様の類い(まれ)なる手腕によってハンバーガー屋は成功していますが、他の商売はまったく手つかずです。これが都市部であれば、ハンバーガーとドリンクのセット販売程度の施策は自然に講じていたでしょう」


「同感です」


「このままではもったいないと思います。町の収入向上のためにも、〈ドーフェン〉で商売する許可を与えていただけないでしょうか?」


「ありがたい申し出ですが、他の商業ギルドと揉めることになるのではございませんか?」


 私は何食わぬ顔で言った。

 しかし、内心では口にしたような懸念は抱いていなかった。

 バイホーンは商魂のたくましい男だが、法律や規則は重んじている。

 何らかの対応策を講じていると確信していた。


「ご安心ください! そうおっしゃると思いまして、公爵領にある各商業ギルドの会長とは事前に話をまとめておきました! 今回は立案者の私が代表としてやってきていますが、商業ギルドの総意と見なしていただいて問題ございません!」


 待っていましたとばかりに声を弾ませるバイホーン。


(なるほど、「赤信号、皆で渡れば怖くない」作戦ね)


 暗黙の了解は、その名の通り明文化されていない。

 守らなくても罰せられないわけだ。

 だから、バイホーンは全員で暗黙の了解を無視することにした。


「それであれば、私がお断りする理由はありません。ハンバーガーショップを含め、あらゆる商売を認めます。必要なものは〈万能ショップ〉でご提供いたしましょう」


「ありがとうございます! さすがはマリア様、お話が早くて助かります!」


「こちらこそ、素敵なご提案をありがとうございます。念のため、条件の覚書(おぼえがき)を作成したいのですがよろしいでしょうか?」


「もちろんでございます!」


 その日のうちに、私はバイホーンを代表とする公爵領の商業ギルド連合と覚書を締結した。

 覚書の内容は以下の三点だ。


――――――――――――――――――――――

①景観維持のため、〈万能ショップ〉を使って店舗を建設することとし、その際の建設費は商業ギルド側の負担とする。

②町民との共生が可能な形で商売をすることを前提とし、必要に応じてマリアの裁量で税率を調整できるものとする。

③土地や建物は〈ドーフェン〉の所有物とし、商業ギルドには貸与という形で提供する。

――――――――――――――――――――――


 要するに、〈ドーフェン〉にとって極めて有利な条件ということ。


 それでも、バイホーンは快諾した。

 〈ドーフェン〉での商売にそれだけの妙味を見出したのだろう。


 それから数日後――


 公爵領の各商業ギルドが一斉に動き出した。

 次々と〈ドーフェン〉にやってきて、商売を始めたのだ。

 〈万能ショップ〉で建設作業を省略できるため、直ちに営業を開始できた。


 これにより、需要と供給のバランスが改善された。

 以前に比べて、行列の長さが10分の1程度に短縮されたのだ。

 もうハンバーガーを買うのに何時間も並ばなくていい。


 当然ながら観光客は喜んだ。

 また、商業ギルドの面々も儲かっているようで喜んでいた。


 だが、誰よりも喜んでいたのは町民たちだ。

 町に有利な覚書があるため、商売は変わらず繁盛している。

 そのうえ、商業ギルドの参入で店が増えた。

 町にいながら流行を味わえて楽しんでいる。


 町民たちが喜んでいるので私も喜んだ。

 この状況を知って、レオンハルトも喜んでいた。

 バイホーンの提案は、皆を笑顔にする素晴らしいものだった。


 ◇


 ある日の昼、私はルッチと町内を視察していた。

 町民から観光客まで、皆が笑顔で挨拶してくれる。


「それにしても賑やかになったっすよねー!」


 ルッチが頭の後ろで両手を組みながら言う。


「推計ですが、観光客も含めた人口は1万人を超えていますからね」


「1万人!? マジっすか!?」


「町民が約2000人で、観光客が平均7000人程度です。この時点で約9000人になります。そこに各都市から派遣していただいている衛兵約700人と出稼ぎに来ている商人約400人を足すと、1万人を超える計算になります」


「おー! そりゃあ、町も大きくなるわけだ!」


 私は「ですね」と微笑み、周囲に目を向けた。

 商業ギルドの参入により、店のバリエーションが豊富になった。

 ハンバーガー屋以外にも、服屋や宿屋、飲食店が軒を連ねている。


 中でも目立っているのが宿屋だ。

 他所に比べて明らかに比率が高かった。

 現代日本のコンビニや歯科医院と同レベルで乱立している。

 早くもハンバーガー屋に並ぶ町の看板事業になっていた。


(まさか宿屋にこれほどの需要があったとは……さすがは商業ギルド、この世界のニーズを把握する力は私より優れているわね)


 宿屋が繁盛している理由は二つある。


 一つは、〈ドーフェン〉が辺鄙な田舎町だからだ。

 やってくるのに時間がかかるため、日帰りだと滞在時間を確保できない。

 だから、宿屋で一泊して翌日に帰る利用法が一般的だ。

 この点は私も想定していた。


 想定外だったのはもう一つの理由だ。

 それは宿屋に泊まることを目的とした客の存在である。


 〈ドーフェン〉の建物は、すべて〈万能ショップ〉で購入したものだ。

 宿屋も例外ではないため、内装が現代的なものになっていた。

 全室にエアコンが完備されており、ベッドも現代的な仕様である。

 その快適さは、貴族の邸宅をも凌駕していた。


 宿泊目的の客は日に日に増えている。

 エアコンに感動して移住を希望する者も急増していた。

 この調子だと、あっという間に町の人口が3000人に達するだろう。


「あ! マリア様!」


 歩いていると、一人の男が声をかけてきた。

 若き商業ギルドの会長・バイホーンだ。

 彼は自身の部下が経営する宿屋の前に立っていた。


「バイホーン様、いらしていたのですか」


「食堂で提供するハンバーガーの食材を届けに来ておりました!」


「相変わらず現場で動き回っているのですね、すごいです」


 商業ギルドの会長になっても現場に出るのはバイホーンくらいだ。


「何をおっしゃいますやら! マリア様にはかないませんよ!」


 バイホーンは「がはは!」と嬉しそうに笑う。

 それから、揉み手をしながら近づいてきた。


「ところで、次の拡張作業はいつ頃になりそうでしょうか……?」


 拡張作業とは、〈ドーフェン〉に店を増やす作業のことだ。

 そのときに、複数の商業ギルドから出ている建設依頼をまとめてこなす。


「おそらく今週中には国王陛下の許可が下りると思います」


 拡張作業は、私の独断では行えない。

 ルクスを大量に消費するため、国王の事前許可が必要になる。


「楽しみですねー! どの商業ギルドも人員を確保して待機していますよ!」


 バイホーンが声を弾ませる。


「そういえば、どうやって人員を確保しているのですか? これまでは都市部から派遣していたと思いますが、これ以上の人員を派遣すると、都市部での商売を維持できなくなるのではありませんか?」


 私は気になったことを尋ねた。


「その点は問題ございません! 他領の商人を引き抜いておりますので!」


「他領からの引き抜きですか」


 私は眉をひそめた。

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