004 万能ショップ
「なに? 今の声? 〈万能ショップ〉って……うわっ!」
私がスキル名を口にした瞬間、目の前に半透明の画面が表示された。
前世ではお馴染みの通販サイトに酷似したものだった。
『ルクスを消費することで、地球のものを買えるようになりました』
再び脳内に声が聞こえる。
ルクスとは、この世界における通貨の単位だ。
もちろん私も持っている。
「ほへぇ……」
無意識に間抜けな声が漏れる。
(ユニークスキルのことは気になるけれど、今はトーマスくんを捜さないと!)
私は頭を振って気を引き締めた。
(この半透明の画面はどうやったら消えるのかしら……?)
そう思った瞬間、〈万能ショップ〉が画面が消えた。
「よくわからないけど、これでよし!」
私は駆け足で洞窟を出ると、トーマスの名を叫んだ。
◇
トーマスを捜索しつつ、〈万能ショップ〉について調べた。
どうやら念じることで通販サイトのような画面を出せるようだ。
消えるように念じれば非表示にできることもわかった。
商品の種類はいろいろあって、見ているだけで懐かしくなった。
今の私は18歳。
すなわち、地球で過ごしていたのは18年も前のことだ。
すっかり中世ヨーロッパ風のこの世界にも馴染んでいた。
だからこそ、こうも思った。
(本当にこの力で地球のものを買えるなら、生活が劇的に改善される!)
それはさておき、私はトーマスを見つけられなかった。
捜索から2時間ほど経ち、辺りはすっかり暗くなっている。
自分まで迷子になりかねないので、ひとまず町に戻った。
すると――
「町長様! 迷子になったのかと思いましたよ!」
「よかった! マリア様が帰ってきた!」
「皆で捜索しようかと思っていたんですよ!」
町民たちが松明を片手に私を待っていた。
そして――
「町長様、僕のせいでご迷惑をおかけしてごめんなさい!」
一人の少年が謝ってきた。
どうやら彼がトーマスのようだ。
彼の背後には、私に捜索を依頼した女性が立っていた。
「トーマスくん、見つかったのですね」
「はい! ありがとうございました、マリア様!」
「お役に立ててなによりです! ところで、私は皆様に謝らなければなりません……」
ちょうど皆が集まっているため、私は光る水晶玉の件を話した。
うっかり触ってしまったために粉々になったと認めて謝罪する。
しかし――
「光る水晶玉?」
「あの洞窟は昔からあるけど、水晶玉なんかあったか?」
「いや、見たことないぞ」
「昨日行ったけど、何もなかったわよ?」
町民たちは一様に知らなかった。
当然ながらユニークスキルについても知らなかった。
「それであれば、何も問題ありません!」
私は胸を撫で下ろした。
トーマスの件も無事に解決したし、ユニークスキルについて調べよう。
◇
私は新居となる領主館に入った。
使用人がいないため、閑散としている。
一人で使うには広すぎる館だ。
「ここで試してみようかしら」
応接間と思しき部屋に入り、木製の椅子に腰を下ろした。
でこぼこしたテーブルにランタンを置く。
(〈万能ショップ〉!)
念じることでスキルを発動した。
今になっては懐かしく思える通販サイトが開く。
よく見ると、右上に所持金が表示されていた。
『62,413ルクス』
妙に中途半端な数字だ。
「もしかして……」
私は財布――巾着袋ともいう――からお金を取り出した。
この世界の通貨はすべて貨幣で、複数の種類で構成されている。
それらを丁寧に分けていった。
「金貨6枚、大銀貨2枚、小銀貨4枚、大銅貨1枚、小銅貨3枚……やっぱり、ちょうど62,413ルクスあるわ」
〈万能ショップ〉と現実の所持金は連動しているようだ。
「あとは本当に買えるかを試すだけね」
半透明の画面を操作する方法は二通りあった。
スマホのように指を使うか、念じるかだ。
今回は指で操作することにした。
スマホと違ってタッチした感触がないのがつらい。
――と思いきや、そんなことはなかった。
この世界で18年も過ごせば、スマホのない生活にも慣れたものだ。
「思ったより高いなぁ」
適当に画面を流し読みしながら呟く。
商品によってばらつきがあるけれど、平均すると1ルクスで100円程度の価値だ。
つまり、私の所持金は日本円に換算すると約620万円になる。
追放された身とはいえ、貴族の全財産でこれだ。
庶民はこの半分もないわけだから、買えるものは限られている。
ただ、何でも売っているのは大きかった。
「とりあえず、これにしよう!」
私が選んだのはドライシャンプーだ。
水やお湯を使わずに済むスプレー型のシャンプーである。
夜に髪を濡らすと風邪をひくため、この商品を購入することにした。
価格は7ルクスだから、大した消費にはならない。
『購入した商品の設置場所を決めてください』
謎の声とともに、商品のシルエットが視界に表示される。
おそらくそのシルエットの場所に商品が設置されるのだろう。
私はテーブルの上に狙いを定めた。
(設置!)
設置方法がわからないので、安直に念じてみる。
すると、その場にドライシャンプーが召喚された。
どこからともなくポンッと。
「嘘……! 本当に……!?」
信じられない思いで手を伸ばす。
その結果、ドライシャンプーを掴むことができた。
有名な日本ブランドのものだ。
試しに使ってみたが、見た目どおりのドライシャンプーだった。
「すごい……! 本当に地球のものを買える……!」
興奮した私は、他にも衛生用品を買った。
歯ブラシに歯磨き粉をつけて口内を綺麗にし、ウェットティッシュで体を拭く。
そういった行為のひとつひとつに感動した。
同時に、こうも思った。
(ユニークスキルと前世の知識、これらを組み合わせたら……町の発展も容易に進められる! この田舎町を大都市にすることだって夢じゃない!)
夜が明けたら、町民を集めて行動を起こそう。
皆の喜ぶ顔を想像すると、自然と笑みがこぼれた。
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