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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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031 エステル:再建計画

 エステルの目標は領地経営で成果を出すことだ。

 自らの能力をレオンハルトに証明するために。


 この目標を達成するには、いくつかの関門があった。

 第一の関門は、適切な領地で経営権を握ることだ。


「つきましては、〈モルディアン〉の都市運営に関与させていただきたいのです」


 エステルは、ローランドとライルに事情を説明した。

 向かいに座っている二人の反応には差があった。


 ライルは何も言わずに父ローランドを見る。

 彼は過去の失敗により、形だけの市長に成り下がっていた。

 もはや自分で判断して政策を実行することはできない。


 また、ライル自身も意欲を失っていた。

 自分の力では父親に認められないと察したからだ。

 だから、最近ではメアリーとの肉欲に溺れる日々を過ごしていた。

 もはや抱き飽きた女だが、婚約した以上、他の相手に手を出せない。

 かつてはマリアを切り捨ててまで欲したメアリーだが、今ではただの足枷でしかなかった。


「素晴らしいご提案、誠にありがとうございます!」


 一方、ローランドは声を弾ませた。

 最高の営業スマイルを浮かべて、ペコペコと頭を下げる。


(エステル様の目的がレオンハルトなのは気に入らんが、ここで協力すれば王家との絆を強化できる。うまくいけば侯爵に格上げされるかもしらん!)


 大貴族の爵位は全部で5つある。

 上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵だ。

 ローランドは伯爵なので、目指すべき上の地位が存在していた。


「ですが……〈モルディアン〉を再建するといっても、具体的にはどうなさるおつもりですか? 観光客は徐々に戻りつつありますが、以前ほどの賑わいは見込みにくいでしょう」


 ローランドの意見は正しかった。

 〈モルディアン〉の景気は底を打ち、緩やかな回復傾向にある。

 しかし、皆が期待していたほどの回復ペースには至っていなかった。


 観光客が公爵領に流れているからだ。

 マリアの活躍によって、公爵領の経済は黄金時代を迎えていた。

 商業ギルドを通じて多額の資金が集まっているのだ。


 そうなると、他領の商人も公爵領で商売をしようとする。

 商人が集まるため、観光客も公爵領に流れていく。

 また、マリア目的で〈ドーフェン〉を訪れる者も多い。


「承知しております。ですから、私は『数』ではなく『質』で勝負する案を考えてまいりました」


 エステルが自信満々に言う。


「質と申しますと?」


「こちらをご覧ください!」


 エステルは目の前のローテーブルに紙の束を置いた。

 彼女が作った計画書だ。


「これは……すごいですね……」


 ローランドはそれしか言えなかった。

 丁寧な字で書かれているが、内容がよくわからなかったのだ。

 それでも、すごいことは理解できた。


 もちろん、エステルもローランドの反応は織り込み済みだ。

 ゆえに彼女は、苛立つこともなく解説した。


「要するに『富裕層専用の観光地に再生しよう』というのが私の提案です」


「富裕層専用……?」


「今の〈モルディアン〉は大衆向けの観光地になっていますが、大衆は公爵領に流れて戻る気配がありません。ですから、そこはばっさり切り捨てて、貴族をはじめとするお金持ちに狙いを絞るのです」


「「なるほど」」


 今の説明ならローランドにもわかった。

 隣に座っているライルも理解した。


「そのためにはブランディングが大切になります」


「「ブランディング……?」」


 二人は首を傾げた。

 聞いたことのない単語だったのだ。


「付加価値……と言っても伝わりませんよね。えっと、要するに『お金持ちが思わず行きたくなるようにしたい』ということです」


「「なるほど」」


 このとき、ローランドとライルは同じことを思っていた。

 最初からそう言え、と。


「そこで登場するのが、この〈ショッピングモール〉というものですか?」


 ローランドが計画書を見ながら尋ねる。

 エステルは「はい!」と声を弾ませた。


「ショッピングモールというのは、複数の店が集まった巨大な商業施設のことです。それを〈モルディアン〉の中央に建設します。すると、モール自体が都市のランドマークになります」


 エステルは、二人が「おお!」と感嘆すると思った。

 この案を最初に聞いたベンゼルが、そういう反応を示したからだ。

 しかし、二人は「ランドマーク……?」と首を傾げるだけだった。


(やれやれ、レオンハルト様が知性を求めるのも道理ですわ)


 エステルは心の中でため息をついた。


「難しく考える必要はありません。ただ〈モルディアン〉の中央に巨大な商業施設を建てるだけです。また、モールに入る店は名の知れた店で固めます。例えば衣服の場合は、仕立屋や有名なアトリエを揃えます」


「「おお!」」


 ローランドとライルが感嘆する。

 エステルの想定よりワンテンポ遅い反応だった。


「とにかく名の知れた職人を囲い込みます。そうすれば、富裕層は公爵領から〈モルディアン〉に流れてくるでしょう。観光客の数は増えずとも、都市の収入は大きく増加するはずです」


「なるほど! 実に名案ですな! たしかにお話を伺っていて、私もショッピングモールに行ってみたくなりました!」


 ローランドが興奮した様子で言うと、ライルも頷いた。


「ですが、ショッピングモールを建設するための土地はどうやって確保するのですか? 〈モルディアン〉の中央はもとより、他の場所にも広い空き地などございませんが……」


「一等地の各店舗には立ち退いていただき、建物自体は解体しましょう」


 エステルはあっさり言ってのけた。


「それはさすがに……」


「問題ございません。というのも、一等地にある店は高級店ばかりだからです。モールに入る資格を有した名店ですので、この立ち退きは一時的なものにすぎません」


「たしかに。ですが、問題は他にもございます。お金はどうするのですか? 〈モルディアン〉にはショッピングモールを建てる財政的な余裕がございません。また、一流の職人を集めるのにもお金がかかります」


 エステルはにやりと笑った。

 彼女が最も話したかった点がこのことだったのだ。


「お金は〈債券〉を発行して集めます!」


「債券? 何ですかそれは!?」


 この世界には債券が存在していない。

 ゆえに、ローランドにはそれが何かわからなかった。

 もちろんライルも同様だ。


「債券とは借用証書のことです。借用証書は何かはご存じですよね?」


「お金の貸し借りを証明するための書類ですよね」


「その通りです。これを都市レベルで行いたいというのが私の考えであり、そのための借用証書を債券と呼びます」


「都市レベルでお金の貸し借りをする……!?」


 ローランドは耳を疑った。


「そんな話、聞いたことがない……!」とライルも驚愕する。


「わざわざ債券という新しい名称にしているのは、借りたお金の返済方法が通常の貸し借りとは異なるからです」


「どういうことでしょうか?」


「貴族間でお金を貸し借りする際、毎月一定額で分割返済しますよね。例えば8万ルクスを借りた場合、毎月8000ルクスを10ヶ月かけて返済するといったように」


「その認識でお間違いありません。少し補足させていただきますと、最初に定めた固定額の利息が加わりますので、実際には1万ルクスを10ヶ月かけて返済する形になります」


「債券の場合、満期を迎えるまでは利息だけの返済になります。そして、満期に元金をまとめて返します」


「なるほど。目先の負担が減るわけですか」


 エステルが「はい」と頷く。


(目先の負担が減る……? 普通に等分割で返済するのと何が違うんだ……?)


 ライルは理解できていなかった。


「どの自治体にも、ある程度の余剰資金がありますよね。その一部を債券という形で〈モルディアン〉に融資してもらいます。私の試算では、伯爵領の全面協力があれば十分に足りる予定ですが、足りない場合は他領にも頼みましょう」


「いえ! 我が領だけで大丈夫でございます!」


 ローランドは断言した。

 他領に頼ると、自分だけの手柄にならないからだ。


「さすがはローランド伯爵、話が早くて助かります」


 エステルが座ったまま頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ素晴らしいご提案をしていただきありがとうございます!」


「それではさっそく――」


「その前に、一つだけ条件をつけさせてください」


 ここでローランドが反撃に出る。

 エステルは「条件?」と言って眉間に皺を寄せた。


「お話をお伺いする限り、エステル様はレオンハルト公爵に能力を証明できればそれでよくて、地位や名誉は求めていないものと推察いたします」


「おっしゃるとおりです」


「一方、我々は大貴族ですので、国王陛下にアピールしたいと考えます」


「何が言いたいのですか?」


 エステルが怪訝そうに目を細める。


「端的に申しますと、〈モルディアン〉の実権はエステル様にお譲りいたしますので、功績はライルや当家のものにしていただけないでしょうか?」


「「なっ……!?」」


 これにはエステルだけでなくライルも驚いた。


「例えば副市長の席を新設して、エステル様に就任していただきます。表向きは市長のライルが最終的な決定を下したことにさせてください」


「…………」


 エステルはしばらく黙考した。


(私の手柄を横取りするつもりね。債券が何かも知らなかったくせに)


 不快に思うエステルだが――


「いいでしょう。都市運営の自由さえ担保されるのであれば問題ございません」


 ――あっさり承諾した。

 レオンハルトにアピールできればそれでよかったからだ。

 ローランドもこの展開を読んでいたからこそ提案していた。


「ご理解ありがとうございます、エステル様! これで息子にも箔を付けられます! それでは、さっそく〈モルディアン〉の再建計画を始めましょう!」


 ローランドは計画書をライルに押し付けた。

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