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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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028 人気化による問題

 数日後、さっそくベンゼルから手紙が届いた。

 王都〈ノヴァリス〉から送ったにしては早すぎる。

 ……と思ったが、その理由も書いてあった。


 王都へ戻る途中に手紙を出したそうだ。

 〈ドーフェン〉は僻地にあるため、一足飛びに王都へ戻れない。

 道中で一休みする必要があり、その際に手紙をしたためたとのことだ。


 内容は私に対する丁寧な感謝の言葉だった。

 あと、『やっぱり現代の紙とボールペンはいいものですね』といった彼なりの配慮も含まれていた。


「それにしても……暑いわね」


 現代日本と同じく、この国にも四季が存在している。

 奇しくも春夏秋冬と呼ばれており、現在は春から夏に変わる頃だった。


(公爵領の夏が暑いことは知っていたけど……この町は特にきついわね)


 公爵領は全域が険しい山に囲まれている。

 その中でも、〈ドーフェン〉は見事なまでの盆地だ。

 農作業には適しているが、気温の高さはこの世界でも屈指である。

 湿度も高めで、日本の夏を彷彿とさせた。


(下手すると日本より苦しいわ……)


 気温自体は、日本に比べると若干低い。

 最高でも32度に達するかどうかだ。


 苦しく感じる理由は服装にある。

 日本と違い、夏だからといって肌の露出は許されない。

 もちろん平民なら関係ないのだが、貴族にはそれなりの服装が求められる。

 そんなわけで、私は今もドレスをまとっていた。


(こうなったら……!)


 暑さに耐えかねた私は、〈万能ショップ〉を使うことにした。


「えー、私、マリア・ホーネットは、町長として皆様に快適な環境をご提供することに決めましたー!」


 前に〈モルディアン〉で使った拡声器を片手に、町の中で宣言する。

 その声を聞いて、町民たちが「なんだなんだ」と集まってきた。


「皆様、この暑さは嫌ですよね!?」


 私が言うと、町民たちは「はは」と鼻で笑った。


「マリア様、何を言っているんだい」


「こんなもの、まだまだ序の口だぜ!」


「〈ドーフェン〉の夏はこれからだぞ!」


 町民たちがとんでもないことを言い出す。

 今の発言を受けて、私は強い決意で自分に言い聞かせた。

 ――これは仕方のないことなのだと。


「もう暑さに抗う時代はおしまいです! 皆様、家の鍵を開けておいてください! 私が勝手に作業しておきますから!」


 有無を言わせない。


(これは町民のため……! これは町民のため……! いや、私のため……!)


 強く念じながら、皆の家に押し入って〈万能ショップ〉を発動する。

 そうして強引に設置したのはエアコンだ。


 もちろん、ただエアコンを買うだけでは使えない。

 そこで、オプションをフルセットで搭載しておいた。

 取り付けの自動化、リモコン電池の無限化、本体清掃の不要化など。

 1台につき5000ルクスもかかったが、その価値はある。


「これは〈エアコン〉といって、室温を快適な温度に保つ画期的な機械です!」


 私はエアコンの使い方を説明しながら実演してみせた。


「そして、リモコンの『運転切換』を押せば!」


 ピッ。


「「「おー! 暖かい風が出てきた!」」」


 家にいた町民たちが驚いている。


「暑くなったら家で涼むようにしましょう! 以上!」


 私は皆の家にエアコンを設置すると、自宅に戻った。

 我が家のエアコンを起動させ、冷房を全開にする。

 さらにキンキンに冷えたコーラも買った。


「ぷはー! 生き返るー!」


 最高の瞬間だった。


 ◇


 皆の家を建て替えたときから、ある問題を予想していた。

 きっと時間の問題だと思っていたが、実際にその通りだった。


「あのー、〈ドーフェン〉に移住したいのですがー!」


 移住希望者だ。

 連日、移住希望者が役場に押しかけていた。

 しかも、その数は増加の一途を辿っている。


 役場も建て替えたが、面積は以前と大差ない。

 都市部の豪邸よりも一回り小さいままだ。


 当然ながら官吏の数も少ない。

 そのため、移住希望者の相手をするだけで手一杯になっていた。


「すみません、マリア様の方針で、現在は移住を受け入れていないのです」


 役場の近くを通ると、必ずそんなセリフが聞こえてくる。

 ときには私に「特例で認めてほしい」と直談判するケースもあった。


「そろそろ本格的に対策を練らないとね」


 私は役場の町長室にいた。

 現代の執務机とリクライニングチェア、ソファが置かれている。


 内装を立派にしたのは、貴族の来訪に備えるためだ。

 公務でやってきた者を私の家に招くわけにもいかない。


 だから、役場の町長室を立派にしておいた。

 応接間の代わりというわけだ。


「マリア様、なんで移住希望者を受け入れないんすかー? 他所はどこも移住者を歓迎しているっすよー?」


 軽い調子で尋ねてきたのはルッチだ。

「ドーフェンの色男」の異名を持つプレイボーイである。

 相変わらず他所では萎縮しているが、町内ではイケイケだ。

 今もソファに深く腰掛けて、前髪を指でいじっている。


「理由は二つあって、一つは財政面の負担が大きくなるからです」


「負担が大きくなる? 普通は人が増えたらそれだけ儲かるんじゃないんすか?」


「普通はそうです。ですが、〈ドーフェン〉は普通ではありません。端的に言うと、私のユニークスキルで全員を養っている状態だからです」


 ルッチは「えー!」と驚いた。


「そうなんすか? 〈ドーフェン〉って農産物でも結構儲かっているんじゃ? マリア様の買ってくれた機械のおかげで収穫量がめちゃくちゃ増えたし!」


「たしかにそうですが、それは個人の所得に関する話であって税収ではありません。〈ドーフェン〉では税金を取っていないため、どれだけ人が増えても税収は増えないのです」


「あ! そっか!」


「それどころか、家の提供やエアコンの設置などで支出は増えます」


「なるほど……」


「もっとも、仮に無税政策をやめて徴税したとしても、一般的な税率では今の環境を維持できません」


「マジっすか!?」


「ルッチさんは先ほど農産物で儲かっているとおっしゃっていましたが、農産物の販売収入はそれほ大きくないんですよ。〈万能ショップ〉の販売収入の3万分の1しかありませんから」


「えええええええええええええ! 3万分の1……! マジでマリア様に依存しまくりじゃないっすか、俺たち……」


 ルッチが愕然とする。


「とはいえ、財政面の負担はそこまで大きな問題ではありません」


「え……! 問題じゃないんすか?」


 私は「はい」と頷いた。


「たとえ町民の数が10倍になったとしても、健全な財政環境を維持できますから。もう一つの理由が大きな問題なのです」

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