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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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027 ベンゼルとの会話

 私はベンゼルを家に招いた。

 ライルが来た際にしつらえた応接間で話す。


「まさか私以外に前世の記憶を持つ人がいるとは思いませんでした。それも同じく地球人だったとは……」


「共通点は他にもありまして、わしもユニークスキルを習得しています」


「本当ですか!?」


「といっても、あなたと違って便利なものではございません。自身のあらゆる損傷を一瞬で治すだけのものです。細胞レベルまで効果が及ぶため、わしは死ぬことができません。ゆえにスキル名も〈不死〉です」


「それは……おつらいですね」


「必ずしもそうとは言い切れません。もともと歴史に興味があったので、この世界がどう変わっていくのかを眺め続けられるのは楽しいものです。楽しさ半分、つらさ半分といったところでしょうか」


「ちなみに、現在のご年齢はおいくつなのですか?」


「ちょうど250歳です」


「250……! すごいですね……!」


 舌を巻く私に対し、ベンゼルは優しく微笑んだ。


「見た目は100歳頃から変化しておりませんので、おそらくその辺りで肉体の老化が止まり、代謝が低下しなくなったのでしょうな」


「なるほど……。ユニークスキルは最初から習得していたのですか? 私はこの近くにある洞窟で光る玉を見つけて、それに触れたことで使えるようになりました」


「わしも同じような経緯です。ある日、家に戻るとテーブルに光る玉があり、それに触れたことで能力が身につきました」


「あの光の玉は何なのでしょうか?」


 ベンゼルは「さあ?」と首を傾げた。


「ただ、私もマリア様も前世の記憶を持つ者であり、どちらも地球人でした。そういった特殊な人間にのみ与えられる神様からの贈り物なのかもしれません」


「そういう認識になりますよね。深く考えても答えが出る問題ではありませんので」


 ベンゼルは「ですな」と頷き、懐から財布――革の袋――を取り出した。


「それでは、経済学と経営学の参考書を買っていただけますかな?」


「わかりました……と言いたいところですが、その前に確認させてください」


 私は真剣な目でベンゼルを見た。


「参考書を使って何をなさるおつもりですか?」


「といいますと?」


「この世界で経済学や経営学の参考書を用いる場面は、領地経営くらいしかありません。そして、実際の経営は非常に奥が深いもので、必ずしも参考書の通りにはいきません。付け焼き刃では、かえって痛手を負うことにもなり得ます」


 ベンゼルは「なるほど」と言い、しばらく黙った。

 それから、ゆっくりと口を開いた。


「参考書は講義のために使います」


「講義?」


「これでも前世では教師をしていました。といっても、小学校の教師ですがね。その経験を活かして、この世界でも子供たちに算数を教えています」


「では、経済学や経営学を子供たちに教えるつもりですか?」


「いえ、それらは王孫のエステル様にお教えする予定です」


「エステル様ですか」


 会ったことはないが名前は知っていた。

 私と同い年で、王都はおろか王城からも滅多に出ない人物だ。


「ここだけの話に留めていただけるのであれば、包み隠さずお話しいたします」


「わかりました。ここだけの話にします」


「実は、エステル様はレオンハルト公爵に恋心を抱いております――」


「へ?」


 と驚く私を無視して、ベンゼルが話し始めた。

 エステルは領地経営で結果を出して、レオンハルトに認められたいそうだ。

 そのために、ベンゼルが経済学と経営学を教えるという。


「――ただ、わしはそれらの学問に詳しくありません。もちろんインフレとデフレの説明くらいはできますが、本格的な経営術は知りません。ですから、まずはわし自身が勉強せねばと思いまして」


「そういうことでしたか」


 少し話しただけではあるが、ベンゼルの人柄がよくわかった。

 私の直感が「信頼に足る人物だ」と告げている。

 だからこそ、私はこう答えた。


「参考書は買わせていただきます。お金はいりません。ですが、条件があります」


「条件?」


「エステル様に経済学と経営学を教えたあとでかまいませんので――」


 私はある条件を提示した。


「――これを受け入れてくださるのであれば、喜んで参考書を買わせていただきます」


 私はベンゼルが二つ返事で快諾すると思っていた。

 求める見返りが大したものではないからだ。


 しかし、ベンゼルの反応は違っていた。

 神妙な顔で「ふむ……」と唸り、深く悩んでいる。


「どうかされましたか? これはこの世界に住むすべての人に恩恵のある話で、とても意義のあるものだと思うのですが……」


「たしかに、マリア様のおっしゃるとおりです」


 そこで言葉を区切ると、ベンゼルは私の顔を見て言った。


「しかし、わしは気乗りしません」


「どうしてですか?」


「この世界……すなわち文明への干渉は最小限にすべき、というのがわしの考えだからです。こうしてお願いに来ておきながら不躾な発言になってしまい恐縮ですが、同様の理由により、わしは地球の商品をばらまくマリア様の行動に否定的です」


 私は驚きのあまり絶句した。

 嫉妬以外の理由で否定されたのは、この世界では初めてのことだ。

 そこに不快感などはなく、ただ純粋にびっくりした。


「そうですか。そういうことなら無理にとは言いません。見返りは不要です。参考書は買わせていただきます。また、ノートや筆記具、下敷きなどもご用意しますので、存分に勉強してください」


「よろしいのですか?」


 ベンゼルが驚いている。


「参考書自体は無償でご用意する予定でした。ただ、ベンゼルさんのお話を聞いて、改善したいと考えている問題の対処をお願いできると思ったので条件を後付けしたにすぎません」


「なるほど。では、わしが断っても別の手段で対処を試みるわけですか?」


「はい。ご不快な気持ちを抱かせてしまい申し訳なく思いますが、私は自分が正しいと思うことを実行します」


「わかりました。マリア様がそういうお考えである以上、わしが断ってもいずれ別の手段で達成されるでしょう。それであれば、わしがご協力いたします」


 今度は私が「よろしいのですか?」と驚いた。


「先ほどマリア様も申しておりましたように、この世界に住むすべての人に恩恵のある話ですから。私の信条に基づいてお断りしましたが、結果が変わらないのであれば断っても意味がありません。であれば、ここで借りを作らないためにもお引き受けいたします」


「ありがとうございます」


「こちらこそ、参考書の件をご快諾いただきありがとうございます」


 私とベンゼルは座ったまま握手を交わした。


「参考書は馬車を手配してから購入しますね。ここから手で持って運ぶより、荷台に設置したほうが快適ですので」


「マリア様にお任せいたします」


 私は頷くと、笑顔で声を弾ませた。


「エステル様の恋愛、成功するといいですね! レオンハルト様は恋愛に興味を持っていないご様子なので、なかなか難しいかもしれませんが、私も陰ながら応援しています!」


 ベンゼルは「ふぉふぉふぉ」と笑ったあと、真顔で尋ねてきた。


「マリア様はそれでよろしいのですか?」


「といいますと?」


「レオンハルト様に恋愛感情を抱いていらっしゃらないのかな、と思いまして」


 私はブッと吹き出した。


「恋愛感情なんてありませんよ!」


「そうなんですか?」


「そもそも地位が違いますからね。レオンハルト様は公爵で、私は小さな町の町長です。恋愛感情を抱くなどおこがましいでしょう」


「ただの町長ならともかく、あなたは特別な存在ではございませんか」


「それもそうですね」


 そこで言葉を区切ったあと、私は「ですが……」と続けた。


「地球風に言えば、レオンハルト様は直属の上司になります。いい人なので好意的に見ていますが、恋愛感情という意味での好意ではございません」


「それを聞いて安心しました。あなたが恋敵だと、エステル様の立つ瀬がありませんからね」


 私は「いやいや」と苦笑した。


「さて、そろそろお(いとま)させていただきます。前世も含めると300年以上生きているため、油断すると何時間も喋ってしまいますので」


「お見送りします。馬車の手配も私がいたします」


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 私たちは立ち上がり、二人で家の外に向かう。


「マリア様は18歳ですよね?」


 歩いているとベンゼルが尋ねてきた。


「はい」


「前世のわしが死んだのは西暦2000年だったので、マリア様が死んだのは2230年頃になりますかな。200年後の地球はどんな感じですか?」


 私はこの発言に驚いた。


「私が死んだのは西暦2025年です」


「なんと!」


「どうやら地球で死んだ時期と、この世界で生まれる時期はリンクしていないみたいですね」


「わしの知っている商品ばかり出回っていると思っていましたが、そういう事情があったのですな」


「今後は定期的に文通をして、地球のお話などもしましょう! 西暦2000年から2025年までの間に、地球の技術は大きく進歩しました。スマートフォンなどもご存じありませんよね?」


「スマートフォン……? たしかに知りません。楽しみにしております」


 ベンゼルとの会話は短かったが、非常に有意義だった。

 同時に、地球を知る者と巡り会えたことが嬉しかった。

 相手も同じだったようで、馬車の準備が整うまで話が止まらなかった。

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