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帰り道

作者: 北出たき

 明かりの消えた図書館には一面陰が落ちているが、窓からは切れ切れの雲と清々しい青空が見えた。

 赤ちゃんを抱いたり、机に座らせて足をいじったりしているとドアが開く音がした。振り向くとそこに佇むAさんと目が合った。Aさんが他の同級生にするのと同じように感じよく笑顔で挨拶してくれて、私はそれに「お久しぶりです」と驚きで笑顔もない挨拶を返した。

 ほとんど話したことはないが2年半好きだった人。一目見れた日は、その日一日ずっと幸せだった。廊下の奥から友達と歩いてくるのを見かけたときは、わざとその前を歩いた。視界に入りたくて、私の姿を認めてほしかった。

 卒業式が終わり、今日が中学生活最後の日であった。意図せず言葉まで交わせて嬉しさで胸が温かくなる。


 赤ちゃんを抱いて、砂利敷きの空き地に据えられた木製の椅子に座っていると、隣のテーブルにいたAさんが「梅田さんも一緒に卒業旅行行こうよ」と話しかけてきた。彼の向かいに座る美月ちゃんに「いいよね?」と確認し「梅田さん白いから体動かした方がいいよ」と続けた。

 私の後ろにあるバス停には長い列が二列もできているが、バスが来た時、二人ともそれに乗って行こうと腰を上げた。

 バスの入り口でこちらを振り返る二人を眺めた。

 そんなこと言ってくれても連絡先も知らないから

という言葉が腹の中で澱になってたまる。頭の中にLINEを交換する二人の手元が浮かぶ。本当は連絡先を知りたくて仕方がないのに、無言で二人の後を見送った。ネットストーキングして見つけたインスタのアカウントしか知らなかった。

 帰ろうと、校庭の周りを高く囲む緑色のネットに沿って狭い道を歩いた。田んぼ一枚ほどの広さに雑草が丈高く生い茂るところに出た。そこを囲む低い土塀の上を歩いていると、反対側に佇んでこっちを見ている女の子が二人いた。二人はぴっちりと寄り添っている。

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