第2章 3 : 翼を持つ白馬
そこそこ体に馴染む服を着込むと、花生はドアへ向かった……
「(……ん?)」
壁にかかった青いマントが微かに光るのを見つける。
「(これだ! 絶対かっこいい……いいよね? とにかく借りる!)」
一目惚れした花生はためらわずマントを羽織った。すると――異世界の風貌が一気に完成し、自然と胸が張れる。
「(よし! 早くフレディヴィアに見せよう、きっと喜ぶはず)」
「(わっ! 花生さん、すっ……すてき……好きです!)」
「ははははっ――!」
妄想に浸りながら外へ出た瞬間、目を細めて笑ったせいで何かにぶつかった。
「いてっ! なんだよ……ドアの前に障害物置くなよ!」
転がった花生が文句を言いながら見上げると、真っ白な馬が無表情でこちらを見つめている。
「アドライトの愛馬か? はは……ただの白馬じゃねえか!」
嘲笑しながら馬の尻をポンポン叩く花生。しかし馬のヘルスは気性が荒く、即座に後ろ脚を跳ね上げた――
「ははは……えええぇぇ――!?」
「ドサッ!」
空中を舞い、遠くの茂みに頭から突っ込む。地面に突き刺さった下半身だけが残った。
「(言葉……わかったのか!? ……痛い!)」
もがけばもがくほど深まる窮地。その時――
「サササッ……」
草を掻き分ける音が背後から近づく。
「助……助けて……?」
「すまん! ヘルスは気性が激しくてな……だが『普通の馬』と言った君にも非はある」
アドライトの声と同時に、花生の足首が掴まれる。ぐいっと引き抜かれ、ようやく解放された。
「ありがと……アドライ……へ?」
騎士の顔より先に、鼻息を荒げた馬の顔が迫る。慌てて後ずさる花生を、アドライトがぱっと掴んだ。
「怖がるな! もう襲わないさ」
疑心暗鬼で振り返ると――馬の肩から生えた純白の翼が陽光に揺れていた。
「それ……翼……?」
「ああ、ヘルスは俺の魔導獣まどうじゅうだ。ただの馬じゃない……仲良くしてくれ。きっと役に立つぞ」
「魔導獣……? で……触っても?」
「どうぞ」
震える手で翼に触れる花生。ふわふわとした羽毛の感触――道端の猫を撫でる時のあの安らぎを超える癒やしが掌に広がる。
「ああっ……天国……」
「(魔法があるなら、魔導獣も納得か……)」
「そろそろ戻るぞ、乗れ!」
「え? ちょ……わあっ!」
恍惚の花生はいきなり馬上に放り上げられた。
「準備はいいか? 飛ぶぞ!」
「な……飛ぶって!? 待って――」
言葉を遮り、ヘルスが地面を蹴る。一秒で高度百メートルに到達し、眼下にはアドライトの屋敷が豆粒の大きさになった。
「ぎゃああああ――ママー!」