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第2章 2 : ヤキモチ?男同士でやめてよ!

「そ、それは……」


アドライトが眉をひそめてカセイを凝視する。重い沈黙の中、フレディヴィアも息を殺している。黒い瞳の少年には何の心当たりもなかったが、覚えていた――目を覚ます前に、凶暴な男たちがこの瞳を見た時の反応を。騎士の温和な人柄は信じていても、彼の態度が豹変しない保証はなかった。そもそも何故今になって…?


「(まさか……実験台にする気? ここは実験室だ……まさか解剖!? や……やめて! 蛙さん、ウサギさん……生物の先生に言われただけです……許してください!)」


ドクドク……ドクドク……


心臓の鼓動が速まる。花生は青い瞳を直視できず、視界を彷徨わせた先に少女の顔があった。


「……もういいや、最後にもう一度ちゃんと見よう」


これが覚悟か? 剣を帯びた騎士に物理的に勝てるとは思えない。天から救世主が降りてくる可能性もゼロだ。フレディヴィアに頼めるわけがない……死は運命だ。せめて命がけで救った少女を――顔から胸元、細長い指先まで……


「(……あれ?)」


『ブリタ族の伝説――勇気ある黒い瞳の者』


フレディヴィアの脇に転がっていた本の表紙が、突然炎のように脳裏に浮かんだ。


「(助かる……!)」


「実は俺……ブリタ族の冒険者だ! 噂ではここでは俺らを勇敢な種族って呼んでるらしいな……へへ、褒めすぎだぜ!」


花生は本を掴み上げ、得意げに笑った。しかし内心は不安でいっぱいだった。この説明が唯一の切り札――失敗すれば万事休すだ。


「(だ……ダメか……?)」


重い沈黙が続く。むしろ空気がますます重くなった。自分で言っておきながら中二病発言に恥ずかしさが爆発する。


「なにっ!? お……お前、本物のブリタから来たのか!?」


アドライトが突然ベッドに飛び乗り、鼻先が触れそうな距離まで詰め寄った。カセイは本を落とし、布団を必死に引き寄せる。


「は、はい……」


あまりの過剰反応に戸惑いながら答えると、今度はアドライトが布団を強引に引っ張り始めた。


「確……確認させてくれ! 伝説じゃブリタの者には生まれつき印があるんだ! 見……見せろ!」


「や……やめてください! 『そこ』ってどこだよ!? いやああああっ――!」


…………


「いやはや……す、すまなかった……つい熱が入ってな」


ベッドの端で頭をかきながら謝罪するアドライト。しかし謝罪対象はカセイだけではない――唇を尖らせたフレディヴィアが睨みつけていた。彼女が最後の瞬間に騎士を止めたのだ。


「……あの件は忘れてください。つまり黒い瞳のブリタ族は実在する……と?」


「そ……そういうことです!」


「ふむ……知ってるか? このエスカロー世界では、子供たちがブリタ伝説で育つんだ。遥か海の向こうの島に、黒い瞳の部族がひっそりと暮らしていたと。人間の歴史が始まって以来、誰も外へ出た者はいなかった……だがピークニという若者が現れた。ある日突然、空間の神姫くうかんのかみひめスペティの導きを受け、中央大陸へ旅立ったと言うんだ……フレディヴィアも知ってるだろう?」


「はい! ピークニ様の勇気を聞いて育った子は、みんな彼を目標にしてます! 私も例外じゃありませんよ」


フレディヴィアが目を輝かせて即答する。原作キャラへの愛を語る同人女と同じ熱量だ。


「ははっ……だから興奮してしまってな、改めて謝るよ」


「そんな伝説があったなんて……納得しました」


「(待てよ……空間の神姫?)」


愛の神姫に智慧の神姫、そして空間の神姫……そもそも何故あの男たちは黒い瞳を見て異常行動を取ったのか? ピークニ伝説を知らないのか? カセイの疑問は膨らむばかりだった。


「あの……」


「ん? フレディヴィア、カセイ君の洗濯桶を奥へ運んでくれるか?」


「承知しました!」


顔を上げると、アドライトは既に半分室外に出ていた。二人とも動き出している今、話を遮るわけにはいかない。しかもこの世界の仕組みを理解するには、ほんの数言では足りないと直感した。


「い……いいえ! えっと……服を貸してもらえませんか?」


「ああ、あそこの机に置いてあるよ」


「ありがとう……フレディヴィア、その……」


「あっ! す……すみません、洗濯桶の用意があるので失礼します!」


「大丈夫ですとも」


フレディヴィアを見送ると、花生は素早くベッドを抜け出した。机の上の服は白シャツにごく普通のズボン――スーツ風だが、どこか懐かしい匂いがした。ズボンの裾には――


糸で刺繍された記号『アドライト』


「……うーん……めっちゃ手作り感あるな」

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