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第1章 6 : この人、本当に騎士なのか?

「戯れはここまでだ!」


瀬戸際の空気を切り裂く威厳ある声。その落ち着いた響きに、少年は思わず救いの神が現れたかと声の主を探したが――


「うっ……!?」


目の当たりにしたのは、想像を超える眩い光だった。失血で既に霞んでいた視界を、さらに白い光が覆い尽くす。しかし光はすぐに収束し、金色の髪をなびかせた大柄な男の姿が浮かび上がった。腰の未だ鞘に納まった剣に手をかけるその姿は、まさしく騎士然としている……死線を彷徨いながらも、少年の脳裡に騎士伝説のイメージが走馬灯のように駆け巡る。


「ちょっと待てよ! 七時間持つって言ったのに、数分で消えるとは? あの奸商め、父親同士の付き合いもあるのに……今すぐ締め上げてやるわ」


「(騎士の風上にも置けねえ……自己演出に夢中で、こっちは今にも血が尽きそうなのに)」


騎士への信頼は瞬時に砕けた。ところが反対に、少女の方は熱烈な憧憬の眼差しを向けている。


「(は? まさかこの二人、知り合いなのか?)」


「ゲホン、冗談はさておき――お前たち、何者だ? 答えろ!」


自ら冗談を飛ばしておきながら、先程の威厳ある声を思い出すと、少年は脱力感に襲われる。騎士は年齢二十前後だろうか。だがその表情が今、鋭い緊張感に張り詰めた。ようやく騎士らしさを取り戻した瞬間だった。


「ほう? 二人相手でも足りず、増し玉か? どうやら骨のある様子……ん? 青い瞳だと? フッ、青だろうが緑だろうが、魔法使えるからって強者だと思うなよ!」


少年の上に跨っていた男が素早く立ち上がる。少年は重しから解放され、ようやく息をつくことができた。


「(はあ……死ぬかと思った。怪我より先に圧死する羽目だった……)」


男は騎士を睨みつけ、手にした短剣を放った。その速度は矢をも凌ぐ勢いで、騎士の紺碧の右目を貫かんと迫る。


「か、気をつけ……」


少年の虚ろな警告がかすむ。もはや間に合わぬと悟り、恐怖で目を固く閉ざす――残酷な光景を視認する覚悟などできなかった。


「パリン……!」


「……え?」


ガラスの砕けるような、しかし鈍い音。少年が恐る恐る目を開けると、騎士の足元に広がる砕けた氷片。その中心で短剣が無力に横たわっている。


「(魔……魔法?)」


「どうだ? 続けるか?」


「くそ……調子乗るな!」

騎士の挑発に男は拳を振りかざして突進せんとする。


「親、親分! や、やめときましょ……!」


今まで傍観していたもう一人の男が必死に


「親分」の袖を引く。その震える声は別人のようだ。


「なんだと! 臆病者が! たかが魔導士ごとき、氷一つでビビるか? 冗談じゃねえ、す


ぐに来い! この屈辱を耐えられるか!?」

引き留めようとする部下の言葉を、親分は一蹴した。


「あ、あの人は……『薬王やくおう』です……」


「なっ!? お前がアドライトだと!? たまげた……今日はツいてねえ。今……今日は見逃してやる……さっさと行くぞ、来い!」


威勢の良かった口調が一転して逃走に変わる。先程までの誇示が嘘のような慌てぶりに、思わず失笑が漏れた。


「はあ……根性なしめ」


「(ただ者じゃないってことか……『薬王』か? ……しまった、意識が……)」


「大丈夫か? なんてことだ! 深手を負っている……すぐに手当てする、耐えてくれ!」


「(や……やっと俺の存在に気づいたか……)」


金髪の騎士と白髪の少女が駆け寄る。少女の心配そうな表情の横で、騎士は青い液体を傷口に注いでいる。だがもはや手遅れだと、少年は諦めかけていた。


「ねえ……お願い……君が来なければ……この子は……助からなかったのか?」


末期の少年が最後に確認したかったのは、彼女を守りきれたかどうか――たったそれだけのことだった。


「勿論助かるさ。彼女は君のメイドだろう? 理由なく他人のメイドを傷つけるのは重罪だ」


「そっ……か……それなら……よかった……」


少年は安堵の表情で瞼を閉じた。


「しっかり! 目を覚ませ!」

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