第1章 5 : まさかのメイド獲得!
「ご、ご主人様……私を助けてください!」
「(え? ご主人様? 何のこっちゃ?)」
少年がまだ前の疑問を考え込んでいる最中、少女が突然口を開いた……「ご主人様」という呼び方に少年は衝撃を受けた――いや、むしろ震撼した。これは演技だろうとすぐに悟ったが、少女の涙で潤んだ藍色の瞳が放つ従属の眼差し……天よ! どう見っても本物だ。
「(なるほど……芝居に付き合えばいいんだな)」
「ご主人様? おい! てめえの家のメイドか?」
「(メイドか……面白い)」
「ゲホン! ああ、そうだ。ウチのメイドだ。今日は本を買いに……そう、本を買いに行かせたんだ。戻って来ないから心配してたら、まさかこんなことに……ねえ、彼女を返してくれないか?」
「(ああああ――本なんて嘘っぱちだよ! 木羽先生のことを思い出して咄嗟に出ちゃった……)」
「じゃあ聞くが、お前のメイドにこんな服を着せるか? 別に高級じゃないが、少なくとも普通のメイド服じゃねえだろ」
「えっと……それは……俺が彼女を可愛がりすぎて、つい……」
「だがな、もっと気になるのは……」
男の問い詰めは容赦なく、少年の言い訳が終わる前に遮った……そして少女を押さえつけている仲間に合図し、少女の体を少年に向かわせる。胸元を露わにされた少女が恐怖で嫌悪の表情を浮かべる中、男がその胸へ手を伸ばした……
「ちょ、待て! 何をするつもりだ!?」
白髪の少女の胸元に迫る魔の手を見て、少年は不安に駆られた――男の意図は明らかだった。
「おいおい、俺をそんなケダモ扱いするなよ!」
男は突然、少女の胸元にぶら下がる小さな石を摘まみ上げた。琥珀色で透き通ったその石は、素人の少年が見ても高価だとわかる品だった。
「これはフェンデイ石だろう? フェンデイ雪山の頂上でしか採れない鉱石だ。この小さな一つで……少なくとも20万メクリはする。メイドがこんな高級宝石を持てると思うか?」
「そ、それは……」
「(はあ?! おいおい兄さん、質問多すぎだろ……それに妹よ、首に宝石ぶら下げて『ご主人様』って呼ぶなんて、困らせるなよ……)」
「すみません……この石は……亡くなった兄が……最後に残してくれたものです……」
少女が涙を溢しながら咄嗟に繕った言葉に、少年は胸を撫で下ろした。
「(すげえ! これも演技か? ……いや、本物の涙だ……)」
「へぇ……お前も苦労人か。悪かったな……放してやれ」
少女を押さえつけていた男が手を離すと、少女は床に崩れ落ちた。少年に向けて無理やり笑顔を作ったが、それはかすんでいた……
「(終……終わったのか?)」
藍色の瞳を見つめながら、少年は深く息を吸った。安堵の胸中が誇りに変わった瞬間――二人の男が威圧感満載で一歩、また一歩と近づいてきた。
「運が良かったな」
「あ……ありがと――え?」
「黒い瞳……だと? 」
少年と男の視線が交差した。少年は驚愕した――男の瞳が真っ白だったのだ。次の瞬間、床に座り込んだ少女が何かを思い出したように、慌てて叫んだ。
「ダメっ! その目を見ちゃ! 早く来て!」
「え? どうした――ぐあああああっ!!」
少年が反応するより早く、男の鉄拳が顔面を直撃した。地面に叩きつけられた少年の耳に、男の狂気じみた絶叫が響く。
「てめえ……いきなり何を――!」
「この怪物め……死ね! 死んでくれ!」
男は突然の狂乱状態で、恐怖に震える声を上げながら少年の顔面を何度も殴打。だが突然、動きを止め……視線を脇へ向けた。
「(……ん?)」
床に喘ぐ少年が不審に首を捻る。男の視線の先には――
床に転がっていたあの短剣があった!
「やめて! お願い!」
少女が必死に手を伸ばすが、もう一人の男に阻まれ――気がつくと、刃先が少年の瞳の直前まで迫っていた。
「(まずい……こいつ、本当に殺す気だ)」
刃が眼球を貫く寸前で少年は凍りつく。男は短剣を高々と掲げ――
「ああああああああっ!!!」
天を衝く悲鳴と共に刃が振り下ろされた。千鈞一髪、少年が左腕で受け止めた! 暗紅色の血が噴出し、床に血溜まりが広がる。生臭い鉄の匂いが路地に充満……吐き気を催させる。
全身を痙攣させながら、少年は傍らで瞳の光を失った少女を見た。
「(ご……ごめん……だれか……助けて……)」