第1章 4 : 離せ!
そうして…少年は自らと争っていた。しかし、突きつけられる記憶の断片――すでに捨て去る決意をし、思い出したくもなかった過去が、少年の心を直撃する。それはまるで足元の地面、すなわち心の最後の防壁を打ち破る一撃だった。再び深淵へと引きずり込まれそうになった…先ほどと同じように。だが今度は、完全に堕ちる直前、必死に手を伸ばして裂け目の縁をつかむ。もがきながら、なんとか這い上がってきたのだ…ついに己を説き伏せ、苦しみから逃げる選択を下した。
「そ…そうだ…なぜ余計な世話を焼かなくちゃならんんだ…」
少年は低い声でそう呟くと、来た道を引き返し始めた。一歩…また一歩…前へ進むごとに、奇妙な感覚が胸の内につのっていく…少年は思わず振り返り、曲がり角の向こうへ視線を走らせた。白髪の少女の顔が脳裏をかすめ、一瞬固まる。そして激しく首を振り、足早に歩き出す…
「おい!てめぇさっきから何見てんだ?やっぱり育ちの悪いガキは、話す時は相手の目を見ろってのも知らねぇのか?まさか今この瞬間に、誰かが助けに来てくれるなんて思ってんじゃねぇだろうなァ?はははッ――寝言は寝て言えよ!」
「(…え?こいつらが言ってるのは…もしかして彼女がこっちを見てるってことか…?)」
再び響く男たちの声が、少年の足を止めた。
「(…でもさ、俺には分かるよ…あんたは…あんたはそういう人間じゃないって!)」
初めて出会った時、少年の心を温かくしたあの言葉が蘇る。深く息を吸い込んだ少年の心に、確かな決意が灯った。
「見えたか…分かっただろう?彼女がな…俺を信じてくれてるんだ…だからこそ絶対に助ける!」
少年は振り返り、先ほどの路地へと走り出す。曲がり角を抜ける時――今度は迷いなど微塵もなかった。
見知らぬ世界の新たな地へと足を踏み入れるや、目の前の光景は怒りを誘うものだった――一人の男が両手で少女の襟首をつかみ上げ、少女の両足はかろうじて地面をかすめている。もがき、蹴り上げる少女だが、男には効き目がない。
「てめぇら…!あの娘を離せ!」
正直なところ、少年も初めての経験だった。かつてアニメで見た台詞を借りて叫ぶ。だが、あのごつい二人組の男相手では、まるで脅威などなけくもない…。声を聞きつけた少女が振り返る。少年の目を見つめ、その瞳にかすかな希望が灯った。
「おお?――マジで出てきやがったなァ。おいっ!てめぇ、救いに来たとかか?」
「ああ!それで何だ?女の子にそこまで手荒な真似をしやがって…絶対に代償を払わせてやる!」
「ほう?それじゃあなァ…ケケケッははははっ!――てめぇごときが…まあいい。一つ教えろよ、こいつとてめぇはどういう関係なんだ?」
「あ?それは…うーん…」
男の一言に、少年は言葉を詰まらせた。確かに核心を突かれている――明らかに実力差がある相手に命を懸けて守る理由。単なる『正義のため』ではあまりに説得力がない…。先程までの気迫はすっかり消え失せていた。
「関係か……なんて言うか……」