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無色の僕と世界の原色  作者: 木絨羽
第二章
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第2章 5 : ターナー投げつける妹

「ドンドンドン——」


「ルシア、ルシア! いるか?」


アドライトがドアを激しく叩きながら妹の名を呼ぶ。


「おい……家のドアすら開けられないのか?」

外から見ると木製のドアに鍵はかかっていない。それなのに叩き続ける兄に、花生は首を傾げた。


「ははっ、君にはわからんだろう……兄として妹にドアを開けてもらうこと、妹として兄のためにドアを開けること——これこそが兄妹の幸せというものだ!」


アドライトが得意げに語るその時、ふとフレディヴィアの表情に気づく。彼女は胸元から取り出した琥珀色の石を悲しげに見つめていた。


「(あの石は……確か彼女の兄が最後に残したものだ! この馬鹿騎士、よくもそんな笑顔で兄妹の話ができるものだ! だが……彼の話ではフレディヴィアは記憶喪失だ。つまり彼女の兄は……まだ生きているのか? ただ顔を忘れただけか?)」


「あっ! すまない! 本当にすまなかった……!」


「い、いいの……ただ……これからはその話を……控えてほしいだけ……」


「わ、わかった……申し訳ない……」


赤面したアドライトが素早くドアを押し開け、先に中へ入る。


「ルシア! お前……」


「ドサッ!——」


「ぎゃああ——痛ててっ!」


鈍い音と共に何かがアドライトの頭に直撃。彼は床に転がり、その傍らに落ちていたのは——


「(は? フライパンのターナー?)」


花生が後ずさりする。フレディヴィアはさらに花生の背中に隠れ、ぎゅっと服を握りしめる。


「(可愛い……!)」


花生が恐る恐る室内を覗く。ターナーが飛んできた方角へ視線を向けると——


「(見つけた! ……あれが……ルシア?)」


階段の上に立つ少女が、殺気立った目でアドライトを睨みつけている。


「ア・ド・ラ・イ・ト! また泥だらけで帰ってきたわね! 誰が洗うと思ってるの!?」


そう言うと少女は階段を駆け下りる——その手に握られていたのは……スプーン?


「待、待てよルシア! 今回は仕方なかったんだ……おっと! まずは客紹介を……ああっ——聞けってば!」


アドライトが必死にもがくが、ルシアは彼の襟を鷲掴みにしたまま離さない。


「そんな力どこでつけた!?」


「余計なこと言わないで! 料理人の握力は剣ばかり振ってるあなた様より上なのよ! 汚れた服を毎回私に押し付けて……こんな兄を持つ妹は疲れちゃうわ。デボさんなんて……真似してみろ!」


「(デボ……? また新しい名前?)」


「覚悟! ……え? 今お客様って言った?」


ルシアが振りかざしたスプーンが止まる。ようやく彼女は放置されていた花生とフレディヴィアの存在に気づいた。


「あの……お、お邪魔します……私達が……」


呆然と手を挙げる花生の声は震えていた。逆立つ髪の少女とアドライトの説明とのギャップに恐怖を覚える。フレディヴィアはさらに花生に抱きつき、息を殺しながら小さくうなずいた。


「あっ!——」


まさかの土下座。


「この美しきお姫様と、凛々しき御方!」


「(は? 今度は何の展開だ?)」


ルシアの声には泣き声が混じっている。


「兄は公務員と申しながら、毎日ふらふらしてトラブルばかり巻き起こしております……お二人様がわざわざお越しになるとは、きっとこの愚兄が何か……」


「(え? アドライトってそんな人だったのか?)」


「おいルシア! でたらめを……」


「黙りなさいっ!」


一喝でアドライトを黙らせ、ルシアは涙をぬぐいながら続ける。


「メドセン家は代々善行を重ねてまいりましたが、この世代だけは教育が行き届かず……どうかお慈悲を……!」


謝罪攻撃に花生は困惑する。背後のフレディヴィアに「どうしよう」と視線を送ると、彼女もきょとんと瞬きをした。


「(はあ……たまらんな)」


「い、いや! そんなことない! 立てって!」


花生が駆け寄り、跪く少女の両手を握り起こす。


「(緑の瞳……ロムと同じ色だ)」


自然と相手の瞳を見る癖がついていた。しかし手を握られ瞳を覗き込まれたルシアの頬が、みるみる赤く染まる。


「わっ! すみません!」


花生が慌てて手を離すと、説明を続けた。


「むしろ私たちが感謝すべきです! 特にアドライトさんには、さきほど悪党に襲われた時も助けていただき、さらに泊まる場所まで……この恩は一生かけても返せません!」


「ほ、本当なの? アドライト?」


呆然としたルシアが床の兄を振り返る。


「うん……」


アドライトが悔しそうにうなずく。


「僕は花生(花生)! よろしく!」


「わ、私はフレディヴィア……よ、よろしくお願いします」


フレディヴィアが初めて自ら挨拶した。小さな勇気の一歩だ。


「よ、よろしく……え? まさか兄貴がこんな善行をする日が来るなんて! 騎士の称号も伊達じゃないのね!」


ルシアの態度が一変し、柔らかな笑顔を見せる。最初の剣幕を知らなければ、別人と思えるほどの変化だ。


「うぅぅ……ちゃんと話を聞いてくれれば……いてっ!」


頭をさするアドライトの泣き声が響く。


「あはははっ——!」


和やかな笑いが部屋に広がる——アドライトを除いて。


「笑うなよー!」


こうして、アドライトだけが傷つく世界が完成した。

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