30-4 歴代最強
倉原先生の命を賭した行為は教員の鑑ともいえる行動。敬意を表したいところではあるが、それよりもまず心配が先に来てしまう。彼女に引率してもらった生徒達も俺と同じ気持ちだったはずだ。先生を一人残して戦線離脱する。
自分にもっと力があればと自身を呪う。彼らがいま感じている悔しさ不甲斐なさは、戦いに身を置く者ならば誰もが通る道。そこで踏ん張り立ち上がれる者だけがその先へと進める。
同じ道をたどったことのある勇者にも痛いほどに伝わってくる。だが、彼らは幸運なほうだ、だって彼女はまだ生きているのだから。死ななきゃ安いとはよく言ったものだ。
対象者の生命力がゼロではない限り、犠牲による癒しで治癒できる。効果については折り紙付きだ、伊達にこの一か月間、莉緒とミーナにこの技能をかけていないんだからな。
(ほんと……毎回、何かと理由をつけては、敵の攻撃をわざと受ける。それを回復の無限ループが多かったこと多かったこと。まあそのおかげで、今こうやって的確に治療できているんだよな……)
彼女を治療しながら今朝の出来事、そして昨日の出来事について思い返していた。
教室から彼らの姿を見た時に、なぜ俺は1ミリも疑問に思わなかったのか。
どんなダンジョンであれ、完全制覇した瞬間から魔物は一切出現しなくなる。その後、ゲートは封鎖され誰も入ることができなくなり、最後にはダンジョン自体が元から無かったかのように完全消失する。昨日は寄り道せずに真っすぐ帰還したこともあり、魔物ことなど気にも留めなかったが、ダンジョン方面から怪我人が戻ってきた時点で、早々にその違和感に気づくべきだった。
俺はそれを見逃した――。
ダンジョンを完全制覇できていなかったということに、あの魔王像自体が罠であったということに、俺は気づけなかった……莉緒はともなく、頭の切れるミーナまでもそのことに気づかなかった。
もしかして、ミーナは罠だと理解した上で、あえて俺の推察にのっかったってことか? もうすでに莉緒が盛大にやらかした後だから、何を言ったところでもう完全に手遅れ、《《後の祭り》》だからか。となると、ミーナも今回の件について事前に知らされていた可能性が高い。逆に知らないほうがおかしい。理事長、校長に次ぐ学園権力者の生徒会長に、何の情報も届いていないなどあり得ない。
そんな思惑を巡らせながら俺は治療を続けた。
莉緒の協力もあり無事彼女を助け出すことに成功した。
先生の周囲に漂っていた死の匂いは完全に消え去っていた。
彼女を迎えに来ていた死神は退社し、両足を突っ込みかけてきた棺桶からも抜け出している。
これなら患部を確認するために、衣服を剥ぎ取り下着姿にしてしまったことも、きっと先生は目をつむって許してくれることはずだ。それに先生本人の許可も得ているので、こっちが責められる理由はない。治療の締めとして、最後に傷一つない綺麗な状態まで回復できたかを莉緒の目で確認してもらい、事前に広げておいた簡易テントに寝かしつける。
血でベットベトになったスーツはポリ袋に入れて封をし、先生を下着姿のまま放置するわけにもいかないので、お手軽収納術に収納してあった莉緒の私服を見繕って、着替えさせておいた。もちろん着替え全般は同性の莉緒に任せている。ただサイズが合わない箇所もあったらしく、そこだけは少しはだける感じになってしまったのはご愛嬌。
さすがにそのままだと少々センシティブすぎたので、御守り程度の毛布を上からかけておいた。起伏の激しい双山を余計に際立たせる結果になってしまったが、それでも隠さないよりかはマシだという結論に至った。
スーツ姿の時はそれほど大きいようには見えなかったのだが、倉原先生は着瘦せするタイプのようだ。先生の胸部装甲は、莉緒やミーナのとは一線を画すレベルだったことだけは、皆にお伝えしておくとしよう。
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