30-2 中坊乱入
級友らが困惑するなか、その少女は不満げな表情を浮かべて一直線に俺のもとへ歩いてきた。
「……あの、俺になにかようですか?」
枝木のように軽く力をいれただけでポキリと折れそうな小柄で華奢な体型。
何学年かは不明だが、それにしても成長が芳しくないというか。彼女が制服を着ていなければ、小学生だと見間違えていたかもしれない。てか、この成長具合で中学三年生です、と言われてもにわかには信じがたい。
俺が予想するに彼女は成り立ての女子中学生。ピッカピカの一年生ってところだろう。
ただどちらにしても幼さの残る顔とは裏腹に、ギラリと輝く眼光や態度、雰囲気から彼女がただ者じゃないのは理解できる。紅色の瞳を向けられただけで、中等部の女子生徒に敬語で話してしまう程度には気圧されている。あまりにも将来有望すぎる逸材だ。
(……ゴクリ……無言で睨めつけてくるなよ……俺何かしたか?)
沈黙に耐えられず援護を求めて、一志の肩を揺さぶったり莉緒にアイコンタクトをとったりしてみたが、触らぬ神に祟りなし戦法を遂行しているようで、一切応えようとはしない。
何とも薄情なやつだと心の中で悪態をつく。ならば、クラスの代表者たる我らが委員長ならどうだ。佐咲ならきっと助けてくれると思い、彼女に熱い視線を送ってみたが……これまた無視された。
級友どころかまさかの担任までガン無視という異様な状況。そこでようやく先ほどの答えが分かった。
今継先生がしきりに時間を気にしていたのに、今ではその欠片すら見えない。腕時計に目を向けることなく、事の顛末を見届けようとしている。
(……なるほど、この厳つい風格の少女が来るのを待っていたってことか。でもなぜに俺んとこに来るんだよ……それなら今継先生んとこに行けよ……マジで)
心の中で祈りを捧げていると、少女はおもむろに口を開いた。
「余について参れ……です。ルーク・凪・ランカード」
「は? なに言ってんだお前?」
「いいからついて参れ……です」
少女はそう言うと俺の手首を握り締めてきた。
か細い腕には似合わない剛力、万力で締められているような錯覚を覚える。
「……痛い痛い痛い、分かった分かったから、腕を掴むの止めてくれ。先生ごめん、そういうわけだからちょっと席外してもいいですか?」
「ああ行って来い、存分のその腕を振るってくるといい」
「えっはい、分かりました……?」
あっさりと退出許可が出た。
今継先生も、この少女も、こうなることを事前に知っていた? まさか莉緒や一志、その級友らの誰一人として助太刀しようとしなかったのも、このことを知っていたから? なら、ボロボロの姿の生徒を見た時の彼らの騒動はなんだ。あーなることは知らなかったということか。
「みんなどこまで知らされている……?」
少女に引っ張られるかたちで廊下へと向かう。その間に、オーディエンスに問いかけてみるが返答はなく、隣から聞こえる騒音によりすぐに霧散した。
ただその中で一人だけ目をキョロキョロと泳がしている人物がいた。
どうやらその人物は俺と同じ境遇にいるようだ。なにも知らされていないのか、もしくは忘れてしまっているのか。
「おい、彼我結なにぼーっとしている? お前も彼女について行け!」
「あたし、ですか?」
やはり莉緒もまた何も聞かされていなかったようだ。自分の顔を指差して聞き返している。
「お前以外に、彼我結って苗字のやつはいないだろ……さっさと行け!」
「はい、なんかよくわかんないけど行ってきます!」
「ああ好きなだけ暴れてこい!」
人間もとい生物の弱点である動脈横でピースを作り「――り♪」と返事をすると、ドナドナされている俺の後ろにつき、歩幅を合わせて歩き始めた。
みんなに生暖かい目で見送られながら、俺は教室をあとにした。
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