29-1 三桁階層
今継先生を筆頭とした教師に最上級生、そしてそれらを遥かに凌駕する校長。これほど有能な人材が揃っているというのに、なんで29階層で攻略を止めていたのか。前回訊ねた時は、あえてそうしていると言っていたが、やはり彼らの実力であれば、正味の話、俺がいなくても問題なく攻略できたはずだ。そこがどうも腑に落ちない、絶対に校長は重大な何かを隠している。もしくは……。
100階層へと続くゲート前で、ふとそんなことを考えてきた。
「なにぼ~っとしてんの凪?」
顔を覗き込みながら莉緒は訊ねてきた。
「ああちょっと思うとこがあってな……」
「わたくしも兄さんと同じ意見です。校長……理事長は何か隠していると思いますよ」
「やっぱミーナもそう思うか」
「えっどゆこと?」
さすがはミーナ聡い、異様なゲートと俺の言動だけでもう状況を把握しているようだ。それに比べて莉緒は素っ頓狂な声を上げ首を傾げている。
「このフザケた文言といい、初の三桁階層といい。異世界ですら、一度も聞いたことも見たことがない。こちらの世界でも、きっとそれは同じはずだ。いくら特別許可を下しているからって、そんな前代未踏の地を生徒だけに任せる。国からこの町を預かる地位を得た実力者が、そんなこと通常では考えられない」
「つまりどゆこと?」
継続して莉緒は首を傾げ続けている、もうそろそろ耳が肩に触れそうな勢いだ。
どう説明しようかと頭を抱えて悩んでいると、ミーナが俺のほうを見て片目をつむり微笑んだ。
『わたくしが兄さんの代わりに説明します』
声には出していないが、その表情からそう読み取れる。ならば、あとは妹に任せてみるとしよう。
ただなぜかそのあざとい仕草を見てから、背筋が凍るような感覚、身震いが止まらないのはなぜだろうか。
「莉緒さんに分かりやすく砕いて説明しますね。本来こういう初めてというものには、お偉いさんが立ち会うのが一般的なんです。歴史に名を刻むという邪な目的もありますが、そこを管理する責任者または代理人が、実際にこの場に訪れて報告書の内容が正しいか確認しなければなりません」
「ってことは、本当なら理事長か校長がいないとダメってこと? でも、毎回ついて来られるのはちょっと邪魔かも……」
「はい、なので基本的には後日編成を組んで確認しているのですが、今回のような特別な場合は、権力者たちは自身の命を顧みず同行してくるのが常です」
「死ぬかもしれないのに? えっバカなの?」
「ええ権力者とはそういう生物なのです。だからこそ彼らは代理人を立てる。ですが、今回はそのどちらも同行していない。初の三桁、100階層に踏み入るというのに立ち会わないなどあり得ない。だからこそ、兄さんは何か裏があるはずだと踏んだというわけです」
「……な~るほど」
莉緒は腕を組み天を仰いでいる。
首を痛めそうなほどのけぞっている上に、その状態で理解したことを俺達に知らせるため、上下に振って行動でも表現している。
「つうことで莉緒も理解したみたいだし、そろそろ行くとしますかね」
「なんかあたしのせいみたいになってんのが納得いかないけど、まあいいわ。さっさと行きましょう」
「なんで莉緒さんが仕切ってるんですか……さあ兄さん、行きましょう」
「ちょい待ち! どさくさに紛れて、凪の腕に絡みついてんじゃないわよ! あんたがその気なら……」
「莉緒さん離れてください。兄さんとの記念すべきゲート通過が台無しじゃないですか!?」
「うっさい! あんたの思い通りになんて絶ぇっ対ぃにさせないんだから!!」
今までとは明らかに違うゲートを目の前にしても、何とも緊張感のない会話をしている。
外界では普通に話しているというのにダンジョン内だと、これが不思議と懐かしい。場所が変わっただけで、こんなに心持ちが変化するとは思いもしなかった。
(単独攻略も存外悪くはないと死のお祭りは思っていたけど、二人とダンジョンに潜るの……やっぱ楽しいな。絶対にあいつらの前では言わんけど……)
登校時同様に両手に花な状態で、俺は怪しさ満点のゲーミング文字が浮かぶゲートを通り抜ける。
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