28-2 校長先生
ダンジョン攻略に関する報告書を直接理事長に手渡したことはないし、校長にも手渡したことはない。それ以前に校長と話したことすらない。
報告書は全て担任の今継先生を経由して校長へ、そこでチェックが入り問題がなければ、理事長のもとへ届けられる。連絡事項などはその逆で、理事長から校長へ、校長から担任へ、担任から俺へと段々で下りてくる。
30階層から99階層までは、ずっとその流れだったので、今回もそんな感じで報告書の提出のみで済むものだと思っていた。が、まさかの呼び出しをくらった。
『報告書だけでは分かりぬくい箇所がある。口頭でも説明してほしいので、校長室へと来るように』
いつもどおりテンプレに沿って作成した報告書。一度たりとも分かりずらいだとか言われたもことも、ましてや突き返されたことすらない。それがこのタイミングで、分からないから口頭で説明しろと、急に呼び出すことなんてあり得るか。
確かに今回は記念すべき100階層ということもあって、少しテンプレから逸れた書き方をしたが……もしかして、それが原因か。だとしても、書き直すようにと報告書を返却するのならまだしも、いきなり呼び出しってのは……物凄く嫌な予感がする。
戦々恐々しつつも校長室の扉をノックする。
「……開いている、入れ。ルーク・凪・ランカード」
室内から入室許可が下される。
男性とも女性どちらでも通用しそうな中性的な声。声質的には今継先生に近いのかもしれない。だが、彼女のような温かみのある感じではなく、とても冷酷な印象を受ける。
その声を聞くだけで身体が強張り呼吸が荒くなる。他人を服従させることに特化したような声、異世界において征服王と呼ばれていた彼を思い起こす。
扉前で「失礼します」と声をかけたのち、扉を開けて中に入る。
校長室は簡素というか、窓一つない閉鎖空間に書斎机が一台あるのみで、他には何も置かれていなかった。部屋の広さは生徒会室と同等といったところだろうか。だが、物の数が段違いだ、こっちは目測で横幅1メートル程度の木製机が一台しかない。壁床天井と四方が全て白く塗られていることもあって、見た目以上に広く感じてしまう。
部屋の中央に配置された書斎机には、スーツ姿の青年が腰を据えて観察するように金銀の瞳をこちらに向けている。
彼がここの主である校長――ミハイル・グラファインその人。黒髪に金銀のオッドアイで高身長、公私ともに常にスーツを着ていることから、ファンクラブ内では、校長ではなくて執事と呼ばれている。
覇者たる風格を兼ね備えた人物、顔を見ずとも扉越しから感じる気配と声で、脳が心がそう自然と理解する。実際にこの目で見て彼の前に立つと、その感覚は間違っていないと確信できる。
俺ですら軽く怖気づくような威圧感、学園のナンバー2でこのレベルなのだから、ナンバー1は想像すらできない。勇者や魔王とは一線を画す実力、神と呼ばれる者達に近しい畏怖を感じる。注、あの駄女神は除く。
校長は俺が入室すると、事前に机上に用意していた報告書を指差して問うてきた。
「……よく来てくれた。早速で済まないが、2ページ目の5行目、左から37文字目について説明を願えるか?」
場の雰囲気に気圧されてしまい、少し反応が遅れてしまったが校長は特に気にしていない様子。正確にいえば、俺に興味がない感じがする。視線が下がったまま上を向こうとしない、校長の目には最初から報告書しか映っていない。
説明しろと呼んでおきながら、顔すら見ようとしないのなら最初から電話で良いのでは? と腹に煮えたぎるものを感じたが、フゥーっと息を吐き自身を落ち着かせる。
初対面相手にこんな感情が芽生えることなど久しくなかった。他の先生に同じような態度をとられた経験は何度かあるが、一度も気にならなかったし何も思わなかった。だけど、なぜか校長には一種の敵意のようなものを覚える。
またまた謎の感情出現に困惑しながらも、俺は校長の質問に一つまた一つと答えていった。
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