27-4 虹色模様
予定では一週間程度、長くても二週間以内で消えるはずだった何てことのないただの噂話。
質問攻めはきつかったが、のらりくらりと答えていけば、そのうち飽きて訊いてこなくなると思っていた。それについては莉緒も同意見だったようで、俺をスケープゴートにしとけば、自分に鉾が向くことなく鎮火すると踏んでいたらしい。
本当に同意見かと首をひねりはしたが、最終地点だけに焦点を当てれば確かに一緒なのかもしれない。端的にいえば、俺も莉緒も所詮はただの学生の噂話、すぐに興味をなくして次の話題に飛びつくはずだと、楽観的にそう思っていたが、三週間が経過してもその熱は一向に冷める気配がない。
たかだが『逢引』という言葉を付け足しただけで、これほど燃え上がり何度消火させようと試みても、火は消えるどころか薪をくべられたかのように、火の勢いは増すばかりで鎮火の兆しがみえない。
時間経過により尾ひれ背びれまでついてしまい、もう元々の内容がどんなものだったか、逆に知らない生徒が続出するほどまでに至っている。
まあ元々の内容ってのが、そもそも空想だったわけだが。
独自に解釈されアレンジされていった噂話には、俺や莉緒だけではなくミーナまで色恋沙汰に参加していた。さらには夢女子達の手による作品までもが数多く誕生した。
さすがにやり過ぎたかと反省したのかその頃になると、級友らは完全に手を引き俺達にそういう類の質問をしてくることはなくなった。そこだけ聞くと、鎮火できてるじゃないかと思いそうになるが、あくまでこれは1年E組内のみの話で、他のクラスは一向に変化なし。
ただそれでも最悪な環境だと最初の頃は思っていたが、慣れてくると存外気にならなくなってくる。
先輩方は沈黙を貫いてくれるので、この質問を投げかけてくるのは同学年のみだし、休憩時間や昼休みは生徒会室に行けば、容易く彼らから逃げおおせる。
だが、それでもどうしても耐え難いものがあった。それは好奇の目にさらされることだ。授業中、休憩時間に関わらず、見られているというゾワッとする感覚。
一歩学園の外に出てしまえば、質問されることはなくなるが、見られているという感覚が消えることはない。
俺に近しい人物である莉緒やミーナにも同様の眼差しを向けられている。
精神的に参っていないかと心配になったが二人は普段どおり平然としていた。
数千という王宮魔術師の上に立っていた元総括責任者であり現生徒会長のミーナ、学級階層の最上位に位置し上級生からも一目置かれる莉緒。二人からしてみれば、そんな目で見られたところで今さら感情が起伏することはないらしい。
そんな二人を見習って我慢していたが限界を迎えた。というか、二人の迷惑にならないようにと耐えに耐えていたが、俺の努力が虚しく思えるほど、あいつらはどんな物語が紡がれているのか興味津々だった。自ら前のめりに訊ね聞いたりと、ここはこうしたほうがいいとアドバイスやらコメントまで残す始末。
こうして、本人公認の物語がたくさん出来上がった。重版おめでとうってぐらいに、二人が助言した物語は女子生徒の間で人気を博している。
その結果、ただでさえ好奇の目で見られているというのに、今度はそれらの物語を勧めてくる女子生徒まで出没し出した。その有志の中には莉緒とミーナの姿もあった。
そんなこんなで、俺は目の前に置いてあったボタンを押すことにした。そう限界というボタンを。
ただ学園内でストレス解消するわけにはいかないので、わざわざダンジョンに赴いたというわけだ。
ダンジョンなら、どれほど騒ごうが暴れようが学園に迷惑はかからない。それにここなら彼らの目を気にすることもない。
「気にはなるが、この先に進むのは理事長に報告してからだな。どう考えてもあの文言はヤバい気がするし……」
ゲートまたはポータルと呼ばれる転送門。その黒い靄の中央には『命知らずの人急募!』というフザケた警告文が浮かび上がっていた。
虹のように様々に色が変化し蛍光色のような鮮明な明るさ。無駄に綺麗な配色や光は、まさにゲーミングと呼ぶに相応しいものであった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。