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27-3 鐘声絶望

 不可視的歩行(インビジブルウォーク)を発動せず、廊下を歩き階段を下り教室に戻る。

 相も変わらず好奇に満ちた眼差しを向けられる。同学年のいる一階はともかく、上級生がいる二階や三階ではそんな目で見られることはなかった。

 彼らは俺を生徒会長の弟としてではなく、ただの一生徒として接してくれた。ただその対応があまりにも無関心すぎる。そもそも一年生()二階三階(ここ)では立場的に部外者だ。そんなやつが堂々と闊歩していたら何か反応を示すのが普通だ。にもかかわらず、先輩方は声もかけてこないし、目を合わせようとしない。

 先輩後輩の関係が縦社会だとしても、これはもうそういう話ではない場合によっては、イジメとも受け取られかねない行為。実際は、ただ単に生徒会長(ミーナ)の教育が先輩方に行き届いているだけである。


 その教育の賜物により、俺はそこに居ないものとして扱われている。

 良いような悪いような何とも不思議な感覚だ。だがそれでも、一階に比べたらここは天国だ。


 一歩進みたびに四方八方からあれこれと質問が繰り出される。予想していたマスゴミムーブそのものだ。囲まれてただでさえ、牛歩だというのにマジでやってられん。やっぱり不可視的歩行(インビジブルウォーク)でコソコソと教室に戻るべきだったか。


(だからといって、莉緒をほったらかして帰るわけにもいかんし……)


 当の本人はというと、後ろに手をまわして優雅に歩いている。だが、彼らの目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せない。平静を装っているように見えるが、彼女の内心はエラいことになっている。

 微笑む向日葵(チャーミングフラワー)という異名をつけられるほど、学園内では常に笑顔を絶やさない莉緒(ギャル)の頬が微かに引きつっている。むこうも俺に隠す気がないらしく、悪態までついている。俺にだけ聞こえるような囁き声で。


「マジウザすぎ……」


 その陰口に合わせて俺もまた呟き返す。


「ちょっとは俺の気持ち理解できたか?」

「ええとてもよく分かった……でも、助ける気はないわよ」

「なぜに!?」


 話の流れ的にもここは助け船を出す空気では? という思いを込めた問いかけに対して莉緒は、無邪気な笑みを浮かべて「教えてやんない」と返してきた。


 なんか莉緒の表情(かお)が柔らかくなった。

 よく分からないが、いつもの天真爛漫な彼女に戻っている。


 何も打開できていないし俺達の教室までまだそこそこ距離がある。ストレスマッハな状況だというのに、なんで機嫌が良くなれるのか理解不能だが、今の状況を鑑みると強ち悪くはないんじゃないか。 イラつきすぎてロクな考えが浮かばないしまとまらないが、平常心を取り戻した莉緒なら俺の代わりに何かいい案を思いついてくれるはずだ。


「なあなんか解決策ない?」

「そうね、チャイムが鳴るまでぼーっとしとく?」

「それ何の解決にもなってなくね? ただ現実逃避してるだけじゃ……」

「だって、あれこれ考えても無駄じゃない? てか、これなら最初からチャイムが鳴るまで生徒会室から出なきゃ良かったわね。ま、今さらだけどね」


 莉緒はあきらめムードで言っているが、確かにそれなら同級生(一年)に邪魔されることはない。


 午後の授業開始を知らせるチャイムが鳴れば、蜘蛛の子を散らすように彼らは解散する。それまでの我慢、あとは伽藍とした廊下を進み馴染みの教室に向かい、愛しい窓際奥の席に座る。だが、この作戦には致命的な問題がある。なぜならチャイムは授業開始時刻ピッタリに鳴るからだ。つまり、その鐘声が聞こえた時に、教室はおろか席にすら座っていない時点でレッドカードである。


「二年三年は一階に下りて来ない限り平常運転だったし、二階待機でチャイムが鳴ったらダッシュで教室に戻るってのはどうだ? まあ明日からになるけど……」

「そうね、当面の間はそれでいきましょうか。一週間の我慢よ、そうすればあんたの好きな平々凡々な学園生活に戻れるわね。休み時間の間だけだけど~」

「なるほど、で莉緒……一応確認だけどさ、この作戦が致命的な問題を抱えていることは理解してるよな?」

「なんのこと……?」

「そっか、やっぱ分かってなかったかぁ。って、マッズイかも……」


 莉緒との会話に夢中になってしまい、周りにいたはずの生徒が消えていることに今頃になって気づいた。視界に入っていたはずなのに、彼らの存在を認識していなかった。それほどまでに俺は拒否反応が出ていたようだ。


 キーンコーンカーンコーン――。


 絶望を告げる鐘が鳴り響く。

 正面奥には1年E組の教室から身体を傾けて手招きする人影が見える。


「あっ終わったわ」

「うん終わりかも」


 誘われるように廊下を進む。


 教室に入ると同時に眼と顎で席に着くように促される。

 俺達が座ったのを確認すると、今継先生は教台に立ち背を向ける。

 このままいつものように板書を始めると思った矢先、担任はチョーク片手にクルリと反転し教台から生徒を見回し発声した。


「あーお前ら、一応言っておくが逢引(・・)するのは自由だが、時間内には戻って来いよ。んじゃ授業始めっぞ。教科書の61ページを開け――」


 一斉に級友らの視線がこちらに向く。

 俺には男子生徒が、莉緒には女子生徒が、それぞれの思惑を胸に抱きながら……。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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