27-2 祭典終幕
土曜日夕刻――俺はまだダンジョンに潜っていた。
憑き物が落ちたかのように何とも気分が良い。
精神に支障をきたすほどのストレス、所持金欄が文字化けしているのを初めて見た時でさえ、声をを張り上げるだけで済んだというのに、今回はいつもの感情爆発だけでは納まりそうになかった。
件の奥義に加えて、怒りの矛先をぶつける相手が必要だった。それほどまでに俺の心はすり減り、限界一歩手前まできていた。
どれぐらい限界ギリギリだったかというと、死のお祭りを一度も中断せずに20階層分行い続ける程度には切羽詰まっていた。
振り返らず小休止もなく魔物を血祭りにあげては、ただひたすらに次の階層を目指して突き進む。
その階層でまた魔物を殲滅しては次へ、攻略が済めばまた次へと、あの時は本当に何かに憑依されていたのかもしれない。
「莉緒のことバカにできねえな。てか、90階層を超えるダンジョンがあるとは思ってもみなかったが、異世界じゃなくて、こっちでそれを拝むことになるとは……しかも、三桁とはな」
100階層へと続くゲートの前で腰を下ろし呆然と黒い靄を眺める。
ペットボトルに直接口をつけて仕事終わり一杯を味わう。
水出しコーヒーのため、苦味も少なく無糖でもゴクゴクと飲める。火照った身体を冷やすのにも最適な飲み物。一番のお気に入りは、ミーナが淹れてくれるイメリア直伝の紅茶には変わりないが、ここ最近だと一番よく飲んでいるのはこのコーヒーかもしれん。
ただ気を付けないといけない点もある、美味しすぎてカフェインを過剰摂取してしまうことだ。なので、一日に飲める量を制限している。いま俺が手に持っている、このペットボトルが丁度その量、500ミリに該当する。
「……ポリパリ……ポテチにチョコ……最初は何だこれって思ったけど、いやはやコーヒーのお茶請けとして最高じゃね」
事前に冷凍庫でキンキンに冷やしておいたチョコがけポテチを無造作に掴んでは口に入れる。
ポテチの塩気とチョコの甘味をひと通り堪能したところで、最後にコーヒーで一気に流し込む。
死のお祭りによるストレス発散と、休憩による心身の回復。
糖分とカフェインにより頭もクリアになってきた。おかげで体調万全、二週間ぶりに平時の俺に戻れた気がする。
莉緒もミーナもいない久方ぶりの単独でのダンジョン攻略。
あいつらを気にかけずに好きなように戦える、自分のペースで好きなように攻略できる。
ボスを独り占めできるし、武具も技能も俺の思うままに装備し発動できる。
「なんとも爽快な実に良い気分だ……」
ここら一帯の魔物を殲滅し、至高の一時を満喫し始めて、かれこれ5回ほど言葉を口ずさんでいる。俺自身がそのことに気づいて数え始めてからの5回目なので、その前に無意識で呟いていた分は加算していない。その分を追加したら余裕で二桁を超えるいるはずだ。
精神安定のためとはいえ、あの状態になってしまうと意識がはっきりしなくなるのが欠点だな。
傾向と対策じゃないけれど、客観的に一度状況を整理しておいたほうが良さそうだ。
さてと、思い出したくもないが、俺がこうなった原因でも振り返るとするか。
今から三週間前、ミーナと俺が姉弟であると発覚したあの日。事の始まりは教室で出迎える担任が興味無さそうに言った、とある言葉からだった――。
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