27-1 祭典開催
土曜日早暁――俺は一人ダンジョンに潜っていた。
二人にはダンジョンに向かった旨を伝えるため書き置きを残している。莉緒は夢の中だったが、ミーナはすでに起きていたので彼女には口頭でも伝えてある。
てっきり、同行してくるのだと思い身構えていたが、彼女は『わかりました』と淡白な返事をして見送ってくれた。あまりにもアッサリすぎて拍子抜けしたほどだ。
久々のダンジョン、久々の単独攻略に、胸が弾むと言いたいところだが、俺の心境はそんな明るいものではなかった。その反対、暗く淀んだ光のない泥沼のような状態だった。
「やあぁぁぁって、られっかあぁぁぁぁ――――!!!!」
声が枯れ果てようが喉が逝ってしまおうが構わない、後のことなど一切省みず咆哮を上げる。
桜川凪、ルーク・ランカード、そしてルーク・凪・ランカードの人生において、今まで出したことのない最大声量。
その魂の叫びがダンジョンの隅々に行き渡り連鎖し反響する。
魔物の敵意を刺激して自分を狙わせる技能。呼び起こす敵意のように、その声に誘われた魔物が四方八方から次々と押し寄せてくる。
「……悪いな、俺の憂さ晴らしにつき合ってもらって。その代わりっちゃなんだけど、目一杯ご奉仕してやるから、それで許してくれよなあ?」
自分でも苦笑してしまいそうなほど、何とも自己中心的な言い分。だが、全然まったくもって悪いと思っていない。
自制心をなくして暴力の限りを尽くす、血の渇きを潤すために犬歯を突き立てる吸血鬼のように、本能の赴くままに凶器を振るう。最高の気分だ、今日は飽きるまで遊びつくそう。
入場料金は貴方のその命、さあさあ死のお祭りの開催だ。
「あっは……あははははは! これだよ、これぇ!! ゲストの皆様も楽しそうに何より、心の奥底まで存分に楽しんでいってくれよなぁ――!!!」
彼らを歓迎するために本日用意した得物は、こちら――竜殺しの異名をもつ聖剣グラム。この剣は神話武具に分類される。莉緒お気に入りのコラーダとティソーンとはまた異なるが、こちらもまた女性受けしそうなデザインをしている。
剣身には目が飛び出るような量の宝石が埋め込まれていて、剣を振るうたびにその宝石は、煌めき光を反射して血生臭い戦闘を鮮やかに彩り、斬撃跡には綺麗な虹がかかる。
異物混入で切れ味や耐久性も無さそうだと、デザイン重視の儀式剣の雰囲気を醸し出してはいるが、
やはりそこは未知なる戦利品。竜殺しの異名は伊達ではない。剣を振らわずとも、その豪奢な剣身が魔物に触れるだけで四散する。
お客様全員須らく、その切れ味に満足してくださった。
ゴブリンにコボルト、オークなどの亜人系、キマイラやケルベロスといった合成獣系はたまたオーガやケンタウロス、ミノタウロスといった巨人系と数多くのお客様が、嬉々としてお越しになった。
それら全てのお客様を俺ひとりでお出迎えして、誠心誠意を込めて1体も逃さずアトラクションに案内した。心ゆくまで堪能していただけたことだろう、それはもう堪能しすぎて、この世から消滅したくなるほどに。
「さて……次のお客様をお迎えに行かなくては……は、ははは……待ってろよ、いま会いに行くから……」
だらりと右手を下ろし次の階層を目指して大地を蹴る。グラムの剣先が地面に擦れて線を引いていく。
この線を見ながら進めばゴールに迷うことはないだろう。まるで迷路が載っている書籍に幼子が落書きしたかのような歪な線だ。誰もこの線を目印にして追って来る者もいない。今日は俺の好きなようにやる。
俺が、俺の鬱憤が完全に消え去る、その瞬間が訪れるまで死のお祭りは終わらない、終わらせてたまるか……。
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