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26-4 兄妹逆転

 思い出に耽りながら弁当を突っついていると、全身全霊をかけて弁当を堪能しているもう一人の同席者が唐突に話しかけてきた。


「ねえ凪……訊いてもいい?」

「ああなんだ」

「えと、そのさ……イメリアさんってどんな人だったの? 凪もだけど、ミーナがそこまで懐く人物って、どんな人なのかなって思ってさ。話題に出てからつい訊きたくなって」

「どんな人……ねぇ……」


 箸を置いて緑茶をすすり顎に手を当て、イメリアのことを思い出す。


 こちらの世界でいうところのヴィクトリアメイドの装いをした俺の四つ上の女性。

 胡桃色の髪と黒と暗めの紺を基調とした裾が足元まであるロングワンピースに白いエプロン。

 いつも笑顔を絶やさず微笑みかけてくれた俺達兄妹の姉であり母だった人。

 誰よりも早く起床し誰よりも遅く就寝し、なんでも完璧にこなす最強メイド。


 イメリアのことを思い出せば思い出すほど、こちらを見つめる幼馴染と一部重なる。彼女もまた特化したものはなく器用貧乏だった。だが、その器用貧乏っぷりは類をみないものだった。

 あの頃は特に何も思わなかったが、勇者として各地を転々とし強者と戦ったりと数多くの経験を得たことで、彼女が一種のバケモノだということを後になって気づいた。


 あの世界で生きる術を教えてくれたのはイメリアだ。

 勇者として旅立つ俺に戦う術を叩きこんでくれたのも彼女だ。

 ルークの人生に最も深く長く関わった人物、故郷()の味が上書きされるのも道理だと得心がいった。


(結局、最後の最後まで彼女に一撃をいれることはできなかったな……あれ? イメリアって、莉緒の完全上位互換じゃね……)


 目を細めて莉緒を見ながら無言で頷く。

 それを見たミーナもまた同様の素振りを行っている。

 こんなところで以心伝心しなくても良いのだが、やはりミーナも同意見ということか。


「な……なによ、黙ってないでなにか言いなさいよ」

「莉緒、ドンマイ」

「莉緒さんドンマイです」

「なんであたし慰められてんの……? で、イメリアさんの話は?」

「それはまた後日詳しく話すから、それよりもだな。この俺達の、つうか主に俺だが、なにか解決策はないか?」

「はぁ……すっごく腑に落ちないけど、まあいいわ。解決策ねえ……ただ普通に質問に答えてあげればいいじゃない?」


 興味無さそうに莉緒はぶっきらぼうにそう言い放つと、箸を手に取り食事を再開し出した。

 肩をゆすっても声をかけても反応なし、黙々と弁当を食している。時たま視線をこちらに向けるが、その眼からは軽蔑や不快といった感情が読み取れる。

 今回のように、ガラガラと眼前でシャッターを下ろされたことは何度かあったが、ここまで顕著に会話拒否されたのは、片手で数える程度しかない。


「えっ……そこまで今回の件って、ヤバいやつなの……」

「なにか兄さ……凪君に不都合なことでもありましたか? あっ、このピクルスも懐かしい味がしますね♪」


 こっちはこっちで、茶番を全力で楽しんでるし……この兄妹改め姉弟を演じているのにはわけがある、つかわけしかない。ミーナが蜃気楼ルフトシュピーゲルングを解除したことによる弊害だ。


 離れを隠すために発動していたあの湾曲呪文には、もう一つ隠された効果があった。

 それは術者自身にも認識阻害を付与するというもの。顔や名前を覚えても映像や音声を残そうとも、それを正しく認識できなくさせる。彼らは彼女が生徒会長だということは認識できるが、その逆生徒会長がミーナだとは認識できない。ミーナ(個人)を特定する情報のみを完全に遮断する。


 ルーク・(なぎ)・ランカードとミーナ・(こずえ)・ランカード。名前や容姿からして親族関係だとすぐに分かりそうなものなのに、今日の今日まで誰一人そのことに気づかなかったのは、その呪文による阻害効果が発動していたからだ。


 で、その呪文が解除されると、どうなるかっていう話なのだが、当然俺達が親族だと気づくようになる。本来なら俺が兄で生徒会長が妹なわけだが、学年的にも年齢的にも、その認識は裏表のコインのように反転し、俺が弟で生徒会長が姉となってしまう。


 そのズレを修正するのかと思いきや話し合った結果、世界のほうに合わせることとなった。もう一度暗示をかけることも可能といえば可能だったらしいが、その際に注意事項として『精神に異常をきたす町民も出て来るかもしれないけど』と、言った瞬間に即却下となった。


 そんなこんなで、今日から俺は生徒会長の弟という役を演じなければならないわけだ。

 楽しい楽しいおままごとのはじまりはじまり……ってな、だがしかし待てよ。


(……確かに莉緒の言うとおりかもしれん。兄妹が姉弟になっただけだし、それっぽく答えるだけならできそうな気がする。こっちが逃げるから、あっちも追いかけてくるっぽいし……その作戦でいくか。はぁ……でも気が重くなるのは変わらん)


 また妹の呪文を受けないはずの莉緒が気づかなかったのは、ただ純粋に名前を知らなかった。もう一つもまた単純なもので、容姿を見ても姉弟だと思わなかったようだ。

 俺を星影学園の生徒だと誤認させる暗示呪文も、そのタイミングで解除されている。ミーナ曰く、一か月近く学園に通ったことで、上書き保存の要領で正しく認識されるようになったから解除したらしい。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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