26-2 親友最確
やっとの思いで教室に到着した途端、今度は級友らからの質問攻めに見舞われた。もちろん莉緒にも同様の問いが投げかけられたわけだが、あちらさんは『詳しくは凪に訊いて』と全投げしてきた。
それからこちらがいくら助けを求めようとも、見えない聞こえないを貫き通している。
級友らの質問にのらりくらりと答えながら自席にたどり着く。
「で、あの朝っぱらの裏山な状況はなんだったんだ? さあさあ親友の俺に言ってみ?」
「お前もかよ……一志……」
席に着くなりいつもの調子で恩人が背もたれに腕をだらりと乗せて訊ねてきた。それはもうニッコニコな笑みで、表情の下に何か隠してるだろと問い詰めたくなる。普段の彼からは想像できないほど爽やかすぎる笑顔が薄気味悪い。
今ならカエサルが『ブルータス、おまえもか』と、言った気持ちがちょびっとだけ分かる気がする。
訝し気な視線と覇気の無い返事に、一志は目を細めるとイスを傾けて耳打ちをしてきた。
「こうでもしないと、お前ずっと皆からあれこれ訊かれ続けるぞ?」
ごめん、カエサルやっぱお前の気持ちは微塵も理解できないかもしれん。
予想を大きく上回る神対応に、俺もまた小声で誠心誠意を込めた感謝の言葉を述べる。
「……心の友よ、マジでお前が親友で良かった」
「ほんとマジで俺に感謝しろよ……男子陣営はまだしも、女子陣営はこうはいかねぇぞ。今だって獲物を狙う肉食獣のような眼で、お前のことを見てるからな……」
「なあ今日一日中、一緒に居てくれないか。お前が居ると非っ常に心強いのだが」
「ふは、ははは……そりゃ無理だ。俺も防波堤としてお前の役に立ちたいところだが、あんまりやり過ぎると俺の命が危うくなるからな。今のうちに何か対策を考えておけよ」
「ああ分かった。助言感謝する……」
一志の言葉を肝に銘じ、休憩時間を凌ぐ方法を思考する。
チャイムが鳴り授業がはじまる。
チャイムが鳴り授業がおわる。
狼の群れに羊が投げ込まれるが如く、ゾンビ集団の中に人間が紛れ込むが如く、鬼気迫る級友が、主に女子が、俺のもとへ駆け寄ってくる。
それらを華麗にスルーし教室を抜け出し、廊下の角を曲がると同時に不可視的歩行を発動し休憩時間ひたすら逃げ切る。
何度も同様の行動を繰り返して、何とか折り返し地点を迎えることに成功したが、次は昼休み逃げ続けなければならない。
休憩時間ならまだいいのだが、昼休みまでも廊下を歩き続けるのも少々というか、かなりしんどい。
それに歩き続けないと、不可視的歩行の効果は消えてしまうため、歩きながら弁当を食べることになる。
弁当ぐらいは腰を下ろしてゆっくりと食べたいが、この現状ではそれすら怪しいというか、どう転んだとしても無理な気がする。
刻々とその時が迫りくる最中、もういっそのこと質問攻めのなかで、堂々と弁当を食うかと覚悟を決めた時だった。
事態を急展開させる神のお告げが、スピーカー越しに聞こえてきた。
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