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04-1 未知学友

 雲一つない晴天となった朝8時過ぎ。


 人っ子と一人見えなかった暗がりの町が目を覚まし一日が始まる。

 太陽が完全に昇ったことやふらふらと散歩したことで、深夜から感じていた肌寒さはいつの間にか無くなっていた。


 町を行き交う人々が徐々に増え始めていた。

 ゴミ袋片手に出社するサラリーマン、四角いバッグを背負った配達員、俺と同じ服装をした少年少女。


 そんな彼らを横目に俺は散策を中断し、登校するために大通りを抜けて通学路に戻る。

 初めての登校を開始してから数分後、後方から誰かを呼ぶ声が聞こえた。


 最初は「おーい!」やら「止まれ!」といった一言ばかりだったが、時間が経つにつれて言葉数が増えていった。


「おーい! 聞こえてるよなー! 無視するなって!」


 必死に声を張り上げて未だに呼び続けている。


「待てって! はぁはぁ……マジで聞こえてない?」


 走りながら叫び続ければ息切れもするだろう。

 声もガラガラで足も乳酸がたまってパンパンだろう。


 通学路ということもあって、学園に向かう生徒はそれなりにいるが、誰も彼に声もかけず手を振ろうとも足を止めようともしない。


 完全に無視されている。

 なんか哀れにさえ思えてくる。


 誰かと一緒に登校しようとして寝坊でもしたのだろう。だからといって、それでこれほど無視されるということは、その相手は彼女とかそういう類か。


(頑張れよ、少年!)


 異世界では20歳だったこともあって、ついつい先輩面で応援してしまったが、転生前を参照しているとなると、俺は16歳の高校一年生となる。そうなってくると、もしかしたら朝っぱらから全力疾走する彼は同い年かそれ以上のはず。


 まあどっちでもいいか……。


 それよりもスクールバッグも持たずに手ぶらで登校って、良くも悪くも目立ってしまうんじゃないか。


 ふと気になった俺は周囲を軽く見回すが、誰も気にも留めていないらしく和気あいあいと談笑しながら、それぞれ登校しているのが見て取れた。

 生徒的には特に気にならないようだ。となると、次は校門前にいる風紀委員とか先生あたりか。

 面倒ごとが嫌なら一番手っ取り早い方法、技能を使えばいいじゃないかという話になるのだが、登校する生徒を見てしまったことで、俺も一生徒として普通に登校したいと思ってしまった。


 いざとなれば例の如くゴリ押しするほかないが、出来るだけ楽しく穏便に侵入したい。


「いや……マジで……」


 背後からは今なお追いつこうと必死にもがく声が継続して聞こえている。


(朝っぱらから死にそうになってるな……可哀そうに)


 心の中で合掌しながら歩いていると急に肩を掴まれた。

 すぐさまその手を振り解き、犯人を確認するため振り返る。


 その正体はまさかの声を張り上げ走り続けていたあの生徒だった。

 彼は額の汗を拭いながら俺に向かって信じがたい言葉を口にした。


「はぁはぁ……やっと追いついた……ルーク(・・・)、無視すんなよ」

「――は?」


 ルークとは異世界での俺の名前だ。

 この世界でその名を呼ばれるなんて思いもしなかった。

 聞き間違い、人違いというわけでもなさそうだ……。


 そうなってくると、俺の今の容姿はルークなのか? 身体は桜川凪だけど名前がルークなのか? それともただのあだ名なのか……頭の整理が追いつかない。


 今すぐに自分の容姿を確認したいところだが、手鏡持ってないかとかスマホで俺を撮ってくれないとかいうと、ただのナルシストの痛いやつになる。


 彼の表情や声のトーンから察するに、ただの知り合いというよりかは親しい関係だろう。

 それでも俺からしてみれば初対面に他ならない。

 はじめましての人にいきなりそんな願いを頼むのは少々厳しい。


 上手く立ち回ることができれば、この世界の俺の人物像を把握できる。

 そのためにもとりあえず今はボロが出ないように話を合わせていかないとな。

 それに友達だったかもしれないやつが、いきなり別人になってしまったと知れば、彼に要らぬ心配をかけることにもなる。


 桜川凪、ルーク・ランカードとして人生を2度も歩めたというのに、どちらの世界でも極力人と関わらないように生きてきた。

 こんな未来が起こりえるのであれば、交友関係を広げて少しでもコミュニケーション能力を鍛えておくべきだったか。


 まあそれでも元々の性分から考えるに、雀の涙ほどの効果しか期待できないかもしれないが。


「……おい、聞いてるのか? なぁルークって!」

「あー悪い。ちょっと考えことをしてた」

「考えことってお前……こっちはガン無視されたかと思って、内心ヒヤヒヤしてったのによ!」

「悪かった」

「あー、気にすんな。俺もちょっと言い過ぎたしな。さ、行こうぜルーク!」


 彼は屈託のない笑顔をして汗だくの状態で、こちらの許可なく肩を組んできた。

 男子学生同士のノリというやつか。特に潔癖症とかではないが、それでもあまり良い心地はしない。

 だけど、不思議なことにこういうのも悪くないなと、どこかそう思えてしまった。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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