26-1 羨望怨情
一睡もせずに弁当作りに励んだことで、在庫分を含めてひとまず毎日三個ずつ消費したとしても、一か月分はもつ程度には補充できた。
寝不足による倦怠感よりも、やり切ったという達成感のほうが強い。目を伏せたくなるほどの眩しい日光さえも、俺の祝福しているように思えてくる。
心地よく最高の気分、充実感に溢れた最高の一日が始まる……そう思っていた。
離れに戻り莉緒を起こす等の業務、雑務を行い、朝支度も完璧に済ませて戸締り確認。いざ登校開始と通学路に踏み入る。
そこからが地獄の始まりであった。
「……あの生徒会長様、ちょいと歩きづらいので、離れてもらえると助かるのですが?」
「凪君は姉さんと一緒に登校したくないのですか……」
「凪はあたしと一緒に登校するんだから、あんたはひとりで登校しなさいよ! てか、邪魔よ、あっちいけ!」
「敗北者がなにを言ったところで無意味ですよ。それにわたくし達は姉弟なのですから、どちらかと言うと、赤の他人である莉緒さんあなたのほうが邪魔者ではなくて? にいさ……凪君からは離れてくださらない?」
「嫌よ、あんたが離れなさいよ! これは賭けてないじゃないの!!」
「やめて、ほんとこんな場所で喧嘩はやめて、せめてやるなら俺の居ない場所でやってくれ……」
俺を中心に右手にはミーナが左手には莉緒がピッタリとくっつき登校している。
そのピタリ具合は暑苦しいの一言に尽きる。両手を俺の腕に絡みつかせ左右から身体を寄せてくる。はじめはミーナのみだったが、途中から対抗意識でも芽生えたのか莉緒までも同様のことをしてくるようになった。
左右の腕がふんわりクッションに包まれ神経が自然とそちらに向かい、歩くたびに髪から華やかなの香りが鼻腔を刺激する。傍からみれば血涙レベルで妬ましいはずだ、絶世の美女に囲まれての登校。俺だって、その中心にいたいと代わりたいと願うに決まっている。それが叶わぬならば、せめて神経だけでも共有させてくれと懇願するかもしれない。俺だって一応、思春期真っ盛りな男子学生なのだから仕方がないだろ。
で、実際にいまその至福の一時を体験しているはずなのに、どうしてこれほど心が躍らないのだろうか……。
負の感情をまとった羨望の眼差しが刃物のように全身に突き刺さる。
二人はお話に夢中で気づいていないようだが、周囲からは人間不信になりそうな罵詈雑言がひそひそと聞こえてくる。言うまでもなく、彼らの対象は両手に花な俺である。
男子女子関係なく、全生徒が羨ましがるであろう状況下に身を置いている。それは認識しているし理解もしている。が、実際にこの状況になった場合、そんな悠長なことは言っていられないだろう。
殺意に満ちた眼や呪詛にさらされても耐えられる鋼鉄の精神があれば、何ら問題ないかもしれないが一般人は、心がすり減り衰弱していくのだ。
昨夜、生徒会長の尊厳がどうとかと気にしていたのが、バカらしく思えてきた。
生徒会長自身が好き勝手に行動してんだから、それを俺がどうこう言ったところで止めそうにない気がする。
そもそも神格化している生徒会長様がそう容易く貶められることもないだろうし、てかもうさっさと学園につかないかな。
俺はいつしか考えることをやめていた。
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