25-3 約束締結
昨夜同様に俺と莉緒は、彼我結家に戻らず男爵屋敷にいた。
夕食やら風呂も済ませている。あとは就寝時刻になるまで、各々時間を潰すだけなのだが、今夜はそうはいかず、俺と莉緒は長テーブルにお行儀よく座っている。背筋を伸ばし両手は膝上に置き、勝者の言葉を待っていた。
対面にはミーナがドンと腰を据えて顎に手を添え鋭い眼光で、こちらに睨みを利かせている。
息が詰まる何とも居心地の悪い雰囲気が漂う。
圧迫面接……そんな言葉が脳裏をよぎる。
敗北した莉緒はともかく、なぜ俺までもがこの場に招集されているのか、その説明すらもされていない。食堂に足を踏み入れて、すぐに重い空気が張り詰めているのには気づいた。その時点で、断りをいれて即座に回れ右をして抜け出せば良かった。
まあその選択肢を選んだとしても、結果は変わらずきっと俺はこの席に座しているのだろうけど、万が一、億が一という可能性がないこともない。その一縷の望みにかけて、挑戦してみるのも存外悪くはなかったのではないか。
せめて俺を呼んだ理由ぐらいは説明してもらえないだろうか。あの勝敗が決した徹底的瞬間に、莉緒かミーナのどちらかにで訊ねておくべきだったか。
入室してからずっとそんな何の役にも立たない、意味もない後悔をし続けている。
(つうか……このままだと今日もここで一泊する感じになっちまうし、そろそろ話を進めてくんないかな)
俺の心持ちに気づいたのか、ミーナは紅茶を一口飲んで喉を潤すと、どこからともなくA4サイズを用紙を取り出し端を指で弾く。
ミーナの謎技術によりダウンフォースのかかった用紙は、舞い上がることもなく机上を滑り、莉緒の目の前でピタリと停止する。
あれほどの衝撃がかかっていたにもかかわらず、用紙はどこも歪んでおらず綺麗な状態を維持していた。
その用紙を目で追いかけて気づいたことがある。
怖ろしいまでに隙間なく文字が羅列されている。
最上部には表題がデカデカと印字されており、右下部には横線のみ引かれた空欄が見える。
「では、莉緒さん。問題がなければ、その誓約書にサインと血判をお願いします」
「……まさか、あんたがそこまでするなんて思ってもみなかったわ」
「言葉でのやり取り、約束なんてあってないものですからね。所詮は口約束というもの、わたくしはそんなもの信用してはおりません。まあ莉緒さんが約束を破るわけはないと思いますが、書面でも誓っていただけますと、わたくし安心しますの」
「ほんとあんたいい性格してるわよ。そういうところは、ほんと凪によく似てるわね……」
「お褒めに預かり光栄です♪」
「…………チッ」
莉緒は舌打ちを決めたあと、視線を落とし誓約書に目を通し始めた。目をかっぴらいて記載内容に間違いはないか確認している。
二人の会話から何やら怖ろしい単語が聞こえた。俺が思っていたものよりも些か、いやだいぶ大きな賭けをしていたらしい。どちらも約束を反故するようなやつじゃないことは俺が一番知っている。
接触してくるよりも前から俺達の動向を見て知っているだろうし、今回のダンジョン探索でミーナも莉緒がどういう人物かさらに深堀もしたはずだ。
なのに、あえて書面に残そうとする理由……それは上下関係を絶対のものにするためだろう。記憶としても記録としても残すことで、莉緒に何しても勝てない相手と心に刻み込もうとしている。
これもまたランカード家に残された幼き頃のミーナが編み出した生き残る知恵なのだろうか。聖女だとチヤホヤされようが、決して揺るがなかった鋼鉄の精神。聞こえはいいが、逆を言えばそれほど心を開く相手がいなかったということ。
どんな約束を交わしたのかは不明だが、双方が納得? しているのであれば、俺はそれを大人しく見守るとしよう。
俺をここに呼んだ理由は、結局わからずじまいだが、第三者機関的な感じで締結するのを見届ける。それが呼ばれた理由だと自己解決したのも束の間。
ミーナから衝撃的な言葉を聞かされる。
「あーそういえば、兄さんにも関係することでしたのに、わたくし何も説明しておりませんでしたね」
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