25-1 舞踏演武
機嫌を取り戻したミーナはスキップを踏み鳴らし鼻唄を歌い、贈り物をバトンのように巧みに操り魔物を蹴散らす。
莉緒のように属性付与を付与している形跡が見えないにもかかわらず、ミーナは物理攻撃が効かないはずの魔物を斬って突いてと倒していく。
「兄さん兄さん! どうですか、わたくしに似合っておりますか?」
「あー似合っているぞ」
「ありがとうございます、兄さん♪」
無双しては俺のもとに駆け寄ってくる。そして二言三言こんな感じのやり取りをすると、ミーナはまた無双しに魔物に向かって行く。投げたボールを拾っては戻ってくる飼い犬のそれである。
「ぐぬぬ……凪……要らぬことをしおってからにぃ」
ミーナが俺の傍から離れるのを見計らったかのように、今度は莉緒が近づいて来る。わざわざ俺に聞こえるように近づいてきたうえで、ボソッと呟いてくる。
あれほど盛大に歯嚙みしている人間を今世で初めて見たかもしれない。事あるごとに『ぐぬぬ』と言っている莉緒を何度か見ているし、初見というのはさすがに言い過ぎか。
そんなことより、なぜ俺が目の敵にされてるっつうか、今回の件が俺のせいになっているのが納得いかん。ということで、言いがかりをつけてきた莉緒に即座に言葉の刃を返すことにした。
「元はといえばお前がまいた種じゃねぇか。あんなちゃっちい嫌がらせさえしなければ、こうはならなかっただろ?」
「それ言われるとなんも言えないじゃん。ああ――だからって、前よりも手際よくなってんのは違くない……?」
「それに関しては俺も同意見だな。マジで俺の妹ってすげぇーよな」
「はっははは……あんたってほんと妹思いのいいお兄ちゃんよね」
「……なんか遠回しに俺のことディスったか?」
「うなわけないじゃん! 凪お兄ちゃん……♪」
苦笑交じりにそう言い残すと、莉緒もまたミーナ同様に魔物討伐に向かっていった。
莉緒とミーナの戦いっぷりを見比べてみるが、やはり莉緒に勝ち目は残って無さそうだ。
野鳥の会並みの正確なカウントではないが、ミーナが呪文を使っていた前半戦を無かったことにして、この武具を手にした後半戦からカウントしたとしても結果は同じ。それほどまでにミーナの技量が莉緒を上回っている。
呪文で戦っていた時よりも、生き生きとしているのは言動から分かるけど、武具のみで戦っているいまのほうが撃破速度が劇的に早くなっているのだけは、マジで意味が分からない。
(つうか、属性付加していない武具で、なんで通常攻撃無効の魔物を倒せてんだ……?)
俺が駄々っ子に授けた武具は、伝説武具に分類される青龍偃月刀という先端に刃が付いた槍の形状をした長柄武器。
通常の槍は突きに重きの置いているのに対して、偃月刀はその名のとおり半月形の刃による斬りに重きを置いている。
童子切安綱、カラドボルグのように特殊能力は備わっていない。が、特殊能力がない分、創世武具に近しい強度を誇る。この武具は刃から柄頭に至るまで、砕けることも欠けることもないが、その代わり密度が凄まじいため途轍もなく重い。
莉緒はもちろんのこと、俺ですら振り回すことはおろか、両手で持ち上げるだけで精一杯。
武具としては非常に優秀なのだが、人類には到底扱え切れそうにない超重量により、入手して間もなくお手軽収納術に即収納した、ある意味いわく付きな代物でもある。
色々と語りはしたが、ミーナの長身と銀白色の長髪、驚異的な身体能力から判断して青龍偃月刀にしたが、俺の観察眼に、目に狂いはなかった。
美髯公と謳われていた武神が愛用したとされる伝説武具。その言葉にあやかるとするならば、ミーナは美髪公といったところだろうか。
またミーナが偃月刀で魔物を薙ぎ払えた理由。それは膨大な精命力を宿している彼女だからこそ、可能とする何とも荒っぽい力技。精命力を直接ぶつけて破壊するというものだった。
説明を聞いても俺には1ミリも理解できなかった。
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