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24-5 贈物優位

 経緯の子細は覚えていないが、魔物撃破数で勝負を決することになった莉緒とミーナ(両名)。圧倒的にミーナ有利な状況が続いている。道理を考えればミーナの勝利は確実だろう。

 衝撃波による遠距離攻撃が可能とはいえ、カラドボルグ自体の剣身が伸びたりするわけではない。剣としてはあくまで刃渡り80センチ前後の片手剣でしかない。その長さが攻撃可能距離、例え斬撃を放とうがその距離は不変。そのため遠かろうが近かろうが、基本的には一体ずつちまちまと倒していくことになる。


 それに対してミーナは呪文による範囲攻撃を行える。一体どころか数十体の魔物を一度に倒すことができる。しかも、かなり威力を抑えて数十体である。ミーナほどの実力者であれば、54階層()大災害(暴風)をひとりで再現可能だろう。それが何を意味するのかというと、この階層にいる魔物を一度で殲滅することができる。にもかかわらず、ミーナは自身に封印をかけるが如く、あからさまに手を抜いている。


 莉緒もミーナも軽口を叩きながら魔物狩りを続けているが、その心の内は真逆のものを抱いているに違いない。


「……さすがにやるわね、ミーナ」

「いえいえ莉緒さんもなかなかの腕前ですよ。追いつかれてしまいそうで、内心ヒヤヒヤしながら戦っています」

「あーそう……」


 京ことば的なセリフで返してくるミーナに、莉緒の心は荒れに荒れまくっていることだろう。あの引きつった顔を見れば、誰だってそう思うはずだ。そんな部外者全開で傍観していた俺に背筋が凍る瞬間が訪れる。


(仲が良いんだか悪いんだが、ほんとによく分からんやつらだな……)


 後方腕組しながら二人の雄姿を眺めていると、莉緒は振り返りニコっと俺に向かって微笑んできた。わざわざ刃を振るう手を止めてまで、駆ける足を止めてまで。そんな時間があるならこれ以上、引き離されないように尽力するべきだろうに。


 その心配は不要だった。


 ワントーン低めの声で返事をした時点で、何となく察してはいたが、場違いともいえる満点の笑顔を見た途端、それは確信へと変わった。莉緒の容姿と明るい性格を体現したような曇りなき笑顔。

 その屈託ない微笑みを向けられているはずなのに、この瞬間(とき)だけは向日葵よりも彼岸花を思い起こす。


 ふと気づくと、俺は喉元に手を当てていた。彼女の笑顔()に負けて幻覚の一つでも見たのかもしれない。あるはずのない死神の鎌でも突きつけられていないか、確認する程度には恐怖を覚えたらしい。


 莉緒はスーハ―と大袈裟に深呼吸をしたのち、声を張り上げ宣言する。


「あたしだって負けないんだから、凪からプレゼントしてもらったカラドボルグ(この剣)で、絶対に絶ぇっ対勝つんだからあぁ――!!」


 最後にあざとく涙目で俺を一瞥すると、そのまま魔物の群れに突撃していった。だが、俺は見落とさなかった。莉緒の口角が上がり口元が緩んでいたことを。


「……で、莉緒のやつ何がしたかったんだ?」


 あの表情からして何か企んでいたのは明白。それは分かるのだが、あの三文芝居に何の意味があるのだろうか? 不安や恐怖で張り詰めていた心は、その生じた疑問により秒で消え失せてしまった。


 莉緒の真意が1ミリも理解できず困惑していると、耳元で囁き声が聞こえた。

 心のささやき(フリュステルン)は昼食時に解除してから再発動していない。つまり、今現在この距離で聞こえるということは、現実にいま隣で囁かれているということ。


 莉緒と10メートル(同程度)の離れた位置にいるはずのミーナが、足音も立てず気配もなく真横に立っている。

 もしこれがホラー展開だったら、俺は呪い殺されてしまい、このままリタイアしていることだろう。


「どういうことですか兄さん? あの武具を? 見たところ神話武具(ミソロジー)だと思うのですが? あれを兄さんがプレプレプレ――プレゼントしたって、本当ですか? ウソですよね? 兄さんがわたくしを差し置いて、誰かにプレゼントなんてするわけないですもの、ねえそうでしょ兄さん? 兄さん? 何とか言って下さい兄さん?」


 ミーナは呪詛のように呟き続ける。

 そこでようやく莉緒の真意に気づけた、気づいてしまった。


 莉緒はプレゼントマウントをとることで、ミーナに精神攻撃を仕掛ける策を講じた。

 しかも、自分に敵意(ヘイト)が向かないように、幾重に保険をかけていた。

 涙目で俺を見たことも、俺の名前や貰ったことを報告するように叫んだことも、全てわざとあえて行った。


(なんとまあ、ずる賢い作戦だこと……やるじゃねぇか、莉緒。ちょっとだけ見直したわ。それはそうと、これはどうしたものか?)


 身体にへばりつき離れようとしないミーナを見下ろし確認する。


「うわぁぁぁ――ん!!! 莉緒ちゃんばっかズルい! ミーナもプレゼント欲しいぃぃ――!!」


 ミーナは七歳児に戻ったかのように駄々をこねている。制服の袖を引っ張りながらピョンピョンと跳ねている。飛び跳ねるたびに、袖部分からはビリビリと悲惨な音が聞こえる。もしもの時に備えて、予備を申請しておいてよかった。


 耳元じゃなくなったとはいえ、このままだと制服同様に鼓膜も使い物にならなくなりそうだ。

 それ以前に……そもそもこいつらは、一体何を賭けて勝負をしていたんだろうか。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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