24-4 根源超過
莉緒だけでも驚きだったのに、ミーナもまた根源の習得者であった。
伝承に語り継がれる根源技能を次々と習得していく、どこぞのエリートが口走った『バーゲンセールか』っていう言葉がふと脳裏をよぎる。
ミーナが習得した根源は、俺達のものとは少し違っていた。常時発動タイプではなく、呪文発動時に合わせて発動できる任意発動タイプ。スイッチのようにオンオフを切り換えて、発動させるかどうか自身で決めることができる。だが、オンにしたところで精命力を即座に消費するというものでもなく、消費量も自分で選べるという何とも根源らしい技能となっている。
ミーナの根源は精命力を消費するが、俺と莉緒は一切精命力を消費することはない。そこがきっと常時と能動的の違いなのだろう。
彼女が習得した根源は超過剰出力と呼ばれるものだった。
その名のとおり精命力を追加で上乗せすることで、その威力や効果を向上させるというもの。過剰なまでに増大させる。
この技能を併用することで、ミーナは異世界転移という偉業を成した。ただこの技能は類まれなる才能の持ち主でなければ、無用の長物となり得る。
どれほどの才覚があろうと精命力が豊富じゃなければ使えず、逆に精命力が豊富であったとしても、呪文や技能の知識が乏しくても使えない。いや、後者はまだその精命力を湯水のように使えばいけなくもないが、それでも厳しいことには変わりないだろう。
常人の数百倍はあろうかという膨大な精命力を宿し、なおかつ呪文に長けた人物。
そんな稀有な人間は、どちらの世界においてもミーナ・梢・ランカード以外には存在しないだろう。
また根源を習得したことで、何も混ざっていない純血の異世界人で、はじめて技能を習得した人物でもある。
莉緒の時はマジかと唖然としたが、ミーナの時は二回目ということもあってか、そこまでの衝撃はなかった。今まで見てみた数々の呪文を発動する際に、彼女は一度として根源を併用していない。というか、我が妹曰く併用したのはたったの一度、件の異世界転移使用時のみである。
使い勝手が悪いとかではなくて、単に使う必要性を見出せないらしい。確かに使わなくても支障がないほど妹の呪文は卓越している。
次にミーナが根源技能を使う時は、異世界に還る時かもしれない。
「凪ぃ、なにボケっとしてんのよ! もしかしてあたしの属性付与に目でも奪われていた?」
「そんなわけないじゃないですか。兄さんはわたくしの呪文に見惚れていたに決まっています、ねぇそうでしょ兄さん!」
「……どっちでもない。二人の根源技能のこと思い返していただけだ」
ミーナの話を聞き終えたあと、俺達はダンジョンから出ずに同階層で、魔物狩りを行っていた。
ダンジョン攻略とかでもなく魔物狩りと称したのは、次の階層を目指す気がないからだ。
食後の腹ごなしも兼ねて、莉緒が57階層の魔物を殲滅すると言い出した。
満腹になったことで恐怖心が消え去った。今の今まで驚かしてきた魔物に正義の鉄槌を下してやる。
彼女の心情を言葉にすると、そんなところだろうか。
(まあ魔物は何も悪くないんだけどな、あいつが勝手に場の雰囲気に呑まれて怯えてただけだし……)
あれほど怖れていたレイスやゴーストといったザ・幽霊な容姿をした魔物を斬って斬って斬りまくる。
ホラー映画やホラーゲーム、そういったあらゆるものが苦手な彼女とは思えないほど、勇敢な振る舞いに胸が震える……は言い過ぎだが、多少なりとも感動はしている。
威風堂々としているのも、属性付与を会得したのが大きいかもしれない。というのも、この階層に出現する魔物は物理攻撃が一切効かない。物理攻撃無効という厄介な能力を保有している珍しい魔物。
この物理攻撃無効というのは、本当に鬱陶しい能力で剣や斧、弓などの攻撃を全て無効にする。例えカラドボルグに精命力を込めたとしても、刃も衝撃波も物理扱いとなるらしく、ダメージを与えることができない。
こういう類の魔物を倒す方法としては主に、呪文か属性武具、技能の三択となる。
例のとおりこの世界の呪文は使い物にならないため、これ一本で魔物を倒すのは少々厳しい。次に属性武具となるが、この世界にそれほど数があるように思えないし、俺も属性武具は全て強制売却済みなので、用意すること自体が難しい。最後に技能となるが、これもまた属性付きの攻撃が珍しいこともあり、習得者があまり多い様にも思えない。
この世界で最も出くわしたくない種類の魔物。
致命的ってきているといってもいいほど相性が悪すぎる。ほんと今の今までどうやってこの魔物と対峙してきたんだって思うほど、御伽適応者にとって天敵すぎる。
そんな天敵を莉緒は気分ごとに火や水、風と属性を切り替えながら次々と冥土に送り返していく。
(……やはり莉緒のほうが分が悪いか)
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