24-2 唯一無二
俺はこの世界の人間ではなかった。異世界から転移したルーク・ランカードその人で合っているらしい。ただ若返った理由については不明瞭な点が多く、ミーナでもまだ仮説の段階で止まっているとのことだ。
たったの6年で、兄の転移先を調べ上げ世界を越える転移呪文を開発し、実行可能なレベルまで練磨した妹ですら『女神の能力』を他者に説明できず、胸の内に留めている。
俺よりあとに、この世界に転移したはずのミーナが、俺よりも半年早くこの世界に転移した理由についても、同様にまだ確証を得ていないようだ。
この世界の部外者であるはずの俺が認識され普通に受け入れられているのも、先んじてミーナが出会っていた協力者のおかげだった。
その者は俺達がこの世界に訪れることも事前に知っていた。ミーナ曰く、技能か呪文かは不明だが、未来を予知する能力を得ているらしく、俺があの日、あの場所に転移することも察知していたらしい。
星影学園の生徒だと誤認させる呪文をかけたのはミーナだが、スクールバッグやら生徒手帳などの身分証明を用意したのはその協力者だ。学園どころか、国家を動かせる程度の力まで持ち合わせているらしく、俺達兄妹の国籍諸々を正規ルートで入手しているとのことだった。
存在しないはずのものをどうやって入手したんだとか、なんで『凪』というミドルネームを追加したのかとか、他にも色々思うところはあったが、そういう気になる点はまた後日質問することにした。
話は逸れるが、ミーナが転校生として学園に通うようになり、わずか一か月足らずで生徒会長にまで上り詰めた。協力者の根回しがあったとかではなく、ただ純粋な実力と圧倒的なカリスマ性によるものである。
あれほどフレンドリーに接してくれた乾一志とは、元から本当に1ミリも面識がなかった。ルーク・凪・ランカードが居ないのだから、当たり前だといえば当たり前の話である。
そのことを知った時は、何とも居た堪れない気持ちにはなったが、そのおかげで俺はいまこうやって自由気ままに行動できている。それに過去の記憶がウソだったとしても、今さら築き上げた関係が崩れることはない。俺にとって、一志はこの世界で初めて会った友人であり、恩人なことには変わりない。
また件の呪文は協力者等を除いた町民全員にかけたらしいが、莉緒には無効化されたと言っていた。この暗示呪文を簡単に説明すると、文章の上にペタッと付箋を貼ることで、文章の改ざんを行うというもの。範囲が広がれば広がるほど、呪文の威力は低下する。なので、これが付箋だと認識できる人物、本場の呪文をかじった人であれば片手間で解除できる。それ以前に、最初から無効化して引っかかることもない。
あちらの呪文を昨夜まで見たことも聞いたこともなかった莉緒が、半年前に朝月町に訪れたミーナの呪文を無効化できるはずがない。そもそもの話、こちち側の人間は、どれほど勉強、努力したところで異世界の呪文を理解することも発動することはできない。理屈がどうであれ、俺達はそういう風に作られている。
呪文を無効化できたということは、莉緒はこの世界の理から外れた存在である可能性が非常に高い。
この世界の住人の中でたった一人、桜川凪の記憶を有しているのも、彼女が手にした新たな力もそれが理由かもしれない。
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