23-4 敵意集中
スフィンクスを瞬殺したのを皮切りに、二人は55階層を軽々と攻略し絶賛56階層に挑み中である。
ミーナは何ら心配する必要もないほど強いし、莉緒も昨日使い始めたとは思えないほどカラドボルグをもう我が物として扱えている。
スフィンクス戦で偶発的に編み出した融合技を独自にアレンジして、更なる力まで手にしている。これからもっと莉緒は強くなる、彼女の成長に期待が膨らむ。
俺いなくても、この二人だけで何ら問題なくダンジョンの最下層まで行ってしまいそうだ。
話は変わるが、休日に制服を着て外出するのにも慣れてきた。ダンジョン探索する際は必ず制服を着用する。これは星影学園の生徒であることを証明する目的もあるが、普通に戦闘服としても優秀な性能をしている。
さすがにドワーフ産の防具とかに比べると数段も下のレベルにはなってしまうが、それでも軽くて丈夫なおかつ防刃仕様で打撃にも強く、火などの各種耐性も付与されている。何より無償で手に入る。支給品の標準武具で防御力を高めるのも悪くはないが、それで動きが鈍くなるぐらいなら、制服だけで戦ったほうがまだマシかもしれない。
(ふっ、魔物と戦うってのに布服のみとか、異世界だとあり得ない軽装備だよな。死にたいのかって、全力で止められるぐらいには場違いな服装だよなあ……)
そんな感想を脳内で述べつつ、阿吽の呼吸で魔物を蹴散らしダンジョンを突き進む二人を追いかける。
彼女達の雄姿を観戦するのも悪くはないが、さすがにそろそろ俺も戦闘に参加したくなってきた。
何もしなくて楽できるってのもあるけど、それが苦痛に思えてくるほど暇で暇でしょうがないのだが、俺の意見は通りそうにもない。
あれほど息が合っていたというのに、56階層の中腹あたりまで進んだところで、また険悪な雰囲気に戻りつつあった。その仲裁? 話を振られたから普通に返しただけなのだが、なぜか俺に敵意が向いてしまったためだ。
事の発端は、ミーナの唐突な自己紹介から始まった。
「あっ、申し遅れました。わたくしの名はミーナ・梢・ランカード。ルーク・凪・ランカードの妹です」
「とうに知ってるっての! なにを今さら自己紹介してんのよ、あんた!!」
「親しき中にも礼儀あり、ということわざがありまして」
「ああそうですか! あたしは彼我結莉緒。あんたの兄の親友……? であってる凪?」
疑問形で自己紹介をしつつ、莉緒はこなれた様子でハーピーの翼を狙ってカラドボルグを振るう。
袈裟斬りから素早く手首を返しての逆袈裟斬りによる二連撃。両翼を斬り裂かれ落下するハーピーを冷笑し、高みの見物をする数体のハーピー。
そのハーピーらもまたミーナの呪文により重力に引かれて地に落ちる。先に地に伏せていたハーピーは、地面に叩きつけられたハーピーを『ざまあ見ろ』と言わんばかりに嘲笑っている。
「そこで俺に振るなっての……お前との間柄か? 確かにムズイな、親友っちゃ親友だけど、家族ぐるみ過ぎて、もう俺の中じゃ妹同然だしな……」
「はっ? なに言ってんの違うわよ。あたしが姉であんたは弟よ!」
「常識的に考えて、どこをどう見ても俺が兄でお前が妹だろうがよぉ」
「……重力。兄さんおかしなことを仰いますね。唯一無二の妹である、わたくし以外に妹など存在するわけないじゃないですか。少々冗談が過ぎますよ……ねぇ、に・い・さ・ん……?」
淡々とハーピーを高高度落下土下座させていたミーナからのいきなりの謀反。
遠目からでもハッキリと分かる、ミーナの眼は空を羽ばたくハーピーと同じ眼をしている。
鳥の羽を持つ女性型の魔物であるハーピーは、空高く飛行し安全地帯から獲物を見定め、両足の鋭いかぎ爪で強襲してくる。魅惑的な歌声で男性を魅了してくることもあり、遠方を攻撃する術をもっていない場合は、即逃走すべしとギルドからも御達しが出るほど面倒な魔物。
魅惑的な歌声で男性を魅了してくる魔物は、確認されているだけで他にも2体いる。下半身が蛇の女性型のラミア、半人半魚の女性型のセイレーン。こっちは、海に生息しており魅了されたら最後、海底へと引きずり込まれてしまう。
一度でも魅了されてしまうと、自身では解除することができないため、かぎ爪による出血死か、海で溺死するかの二択となる。
ただ魅了は男性にしか効果がないため、遠距離攻撃が得意な女性からしてみれば、海底に逃げ込むラミア、セイレーンはともかく、ハーピーはボーナスのような魔物である。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。
特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。
他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。