23-3 偶発災害
胴体は獅子、頭部は人間の魔物スフィンクス。言わずと知れたファラオを守護せし魔物であり、旅人に謎かけを仕掛けてくることでも有名。外界においては、ギガンテスのように人類と交友関係を築いており、とある国では守護獣として祀られている。
ダンジョンに出現する魔物が、別ものだとは理解していても敵対するのはあまり良い気持ちはしないものだ。
本来のスフィンクスは戦いを好まない。言葉巧みに相手を翻弄し、相手を罠に嵌めたりして戦う気を無くさせて降参するように促す。そのため、かの魔物と戦っても命を落とすことはほとんどない。もし、命を落とすような事態に陥ったとなると、その人間は余ほど愚鈍な選択をしたことになる。憐れむ必要などないほどに。
所詮は偽物、54階層のボスあっけなかったな……と思ったのも束の間、大惨事が眼前に迫っていた。
先の浪漫技により、天変地異、世界の終わりのような砂漠全土を覆いつく勢いの砂嵐が発生していた。意思を持ったかのように渦を巻き、周囲の砂塵を取り込み巨大化しながら、こっちに向かってきている。
砂嵐に巻き込まれた魔物は宙に舞い上がる。そして、猛烈な風に全身を切り刻まれ、切り傷ができるたびに、そこに砂が擦り込まれていく。見ているだけで肝が冷えそうな痛々しい光景が広がる。
今すぐにでもこの階層から他階層に移動するべきなのだが、どういうわけか莉緒もミーナも引き返そうとしない。それどころか一歩もその場から動いてすらいない。
「なに、なに、なに、なにぼーっとしてんだよ! あれはマズい! 巻き込まれないうちに、さっさとこっから離脱するぞ!!」
「大丈夫よ、凪」
「心配ご不要です、兄さん」
俺が二人は静謐にそう告げる。
ミーナが「凪」と口ずさみ指を振るう、それに合わせて莉緒も横一文字に刃を振るう。
薄っすらと白みがかった衝撃波が、迫りくる砂嵐を上下真っ二つに両断する。その刹那、砂嵐は分散し暴風はそよ風に、最後には無風となり消え失せる。階層を覆いつくそうとしていた数多の砂は重力に引かれて地に落ち、平坦だった砂漠に小さな丘ができあがっていた。
「あんたやるじゃない」
「あなたも悪くない腕前でした」
「なにその言い方、褒める気ないでしょ」
「ふふふ、そんなことありません。純粋にあなたの実力を褒めておりますよ」
「ほんとかな……まあいいわ。これからよろしくね、ミーナ」
「こちらこそよろしくお願いいたします、莉緒さん」
たった一度、偶然に成功しただけの融合技? を目配せも合図も出さずに難なく成功させた。
二回目は異なる呪文だというのに、どっちもさも当たり前のように。
今回はじめて一緒にダンジョンに潜り、さっきまでずっとバラバラに戦っていたにもかかわらず、数年背中を守り合ったかのような息ピッタリの共闘。
(一体なんだってんだよ……まあでもいい感じに距離は縮まったな)
実力も認め合ったことだし、このままさらに二人の仲が深まり、いい友達になるのだろうと、この時はそう思っていた。
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