22-3 質疑応答
「……くっ……あ、あんたが……凪の妹? そんなこと信じられるわけないでしょ、あんたのほうが年上じゃないの! それにもしもの話、本当にあんたが凪の妹だとして、同じベッドで寝ていい理由にはならないわ、しかも裸で寝るなんてあり得ないわよ!! ねえ凪! あんたもそう思うでしょ!!!!」
明らかに話を逸らす目的で、俺に振ってきた感が否めないが、そもそもこれは何に対して莉緒が怒っているのか、ミーナもなんで言い返しているのか、なんで言い争いに発展しているのか、俺はそれがいまいち理解できていない。なので、どう回答するのが正解なのかも分からない。
ひとまずは幼少期のミーナのことでも軽く伝えておくか。
「そう言われてもなあ。ミーナはいつも裸だったし、いつの間にかベッドに忍び込んできてたし……なんつうか慣れた」
「ちょ、あんたそれ! 夜這いされてんじゃないの!! あたしだっ……凪、あたしお腹空いた。朝ご飯つくって、いま、すぐに」
「ああ分かった、食べたいものとかあるか?」
「なんでもいい、とりあえずお腹が膨れたなんでもいい……やっぱ甘いもの、甘いものにして……」
莉緒はそう言い残すと脱兎の如く走り去った。足音からしてそのまま階段を駆け下りて、リビングに直行したようだ。
拗ねた感じで『甘いもの』が食べたいと言ってきた場合、ほぼ百パーセントに近い確率で、莉緒は罪深き食パンを欲している。
ギルティートーストをザックリ説明するとシュガートーストである。
通常のシュガートースト同様にバターやグラニュー糖を使って調理する。使用する食材も調理工程とかも、思い描く定番レシピと何ら変わらない。ただ他とは違うのは、それらの量が致死量を思わせるほどエグイ量なのだ。
魔物と戦ったりダンジョンを駆けまわったりと、膨大なカロリーを消費していなければ、絶対に食べさせない。それほどまでに末恐ろしい食べ物なのだ。だが、そういうものに限って、美味いのもまたこの世の真理である。
「さてと、そういうわけだから俺は先に行っとくな。ミーナはゆっくり降りて来ていいからな」
「……わたくしも兄さんと一緒に朝ご飯を作ってもいいですか?」
「うん? それは別に構わないがちゃんと服を着てこいよ。じゃまたあとでな」
「はい、兄さんまたあとで……」
昔は全裸で部屋を走り回っていたというのに、ミーナが掛け布団をバスタオルのように身体に巻きつけて身体を隠している。
それだけで大進歩だと思う時点で、俺はやはり相当妹に甘い。ギルティートーストぐらいに甘々な採点をしているのだろう。そうだと理解していたとしても、一度決めたその基準を変更するのはなかなか難しいものだ。
ミーナを自室に残して莉緒が待つリビングへと向かう。キッチンに直行しても良かったのだが、一応様子だけでも見ておこうと思ったからだ。
ドアに手をかけリビングに入ろうとしたタイミングで、室内からドスの利いた声で質問される。
「で……本当に生徒会長は、あんたの妹なの?」
「……ああたぶん本当だ。あっちではミーナ・ランカードって名で、八つ離れた妹だった。なぜかこっちだと、年上で俺の凪のように梢っていうミドルネームが追加されてるけどな」
「ふ~ん。で、たぶんってことは、あんたもまだ生徒会長が自分の妹だと信じ切れてないのよね? それなのに裸で一緒に寝たのよね。妹かどうか分からない女性と、同じ、ベッドで? へぇふ~んそっかぁ……」
「語弊のある言い方やめい。その理由はさっき話しただろ。あと揚げ足取るのも止めろ。言動から判断するに間違いなく、妹のミーナだとは思うが、色々と気になる点が多すぎる。だから、つい『たぶん』って言ってしまっただけで他意はない。」
「そう……納得はできないけど、あんたの言葉を信じて今は追求しないであげる。で、次の質問だけど――」
ドア越しでの質疑応答が暫くの間、繰り返される。
本来の目的さえ見失いそうなほどの質問攻めに辟易し始めた頃、階段を下る足音が聞こえた。
着替え終わったミーナがこちらに向かってきているようだ。これを理由に話を切り上げることができる。
「ミーナも降りてきたことだし、もうそろそろいいか? このままだと朝食が昼食になっちまう……」
「ミーナも、ね……分かったわ。今回はこれぐらいで許してあげる。じゃ、あれ楽しみに待っとくわね」
「ご期待に沿えるよう誠心誠意を込めて、お作りいたしますとも……お嬢様」
「なにそれ? あっはは……よきにはからえ!」
その言葉を最後にドアの向こうから声が聞こえることはなくなった。
足音が遠のいていったことから、莉緒はドアから離れたのだろう。
莉緒と交代するかのように、今度はミーナから声をかけられる。
「兄さん、お待たせしました? あれ、どうしてリビング前で佇んでおられるのですか?」
「ちょっとな……それじゃキッチンに行くか!」
「はい、兄さん。それでメニューは決まっているのですか?」
「ああもう決めている。罪悪感と幸福感が同時に訪れる、最高最悪な料理を今日はつくるぞ!」
ミーナは右斜めを見ながら「はあ……? 不思議な料理なのですね」と、何とも当たり障りのない言葉を口にしていた。
そして――なんやかんやあって現在に至る。
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