03-1 根源技能
地下迷宮らしきものは、むこうの世界にあるものと酷似していた。
あっちからそのまま転送してポンっと置いたんじゃ無いかってぐらいにそのまま。
興味本位で内部を確認してみた結果、むこうの世界で何度も潜った地下迷宮と同じものだった。
コピーアンドペースト。
あの世界で地下迷宮を探索した者なら誰しも思い浮かぶであろう言葉。
俺以外に転生者は居なかったので、あくまで個人の感想ではあるが。
地下迷宮は豪雪地帯や山岳地帯または盆地や平地、どこであっても基本的にはあの見た目をしている。
転送門と呼ばれる黒い靄を通り抜けることで地下迷宮に入ることが出来る。
内部は異空間となっていて外界とは全くの別物であり、外が豪雪地帯だとしても中は迷宮や洞窟、はたまたマグマが煮えたぎる火山や水中都市など千差万別。
階層ごとに地形も毎回一新されるため前の階層が洞窟だったからといって、次の階層がそうとは限らないのが、この地下迷宮の非常に面倒なところだ。
ただ実際に魔物と戦ったことで一つ分かったことがある。
こっちの世界のものは、難易度調整をした初心者用地下迷宮。
階層を下りるたびに出現する魔物は強くなる。見た目が同じだとしても能力は飛躍的に向上する。
安易に見た目だけで判断し命を落とした冒険者を数多く見てきた。だが、この地下迷宮はその難易度の上がり方が緩やかになっていた。体感での判断とはなるが、あっちの1階層がこっちの5階層分に相当する。
で、俺は今その地下迷宮の30階層へと続く転送門前で胡坐をかき、女神の言葉を思い出していた。
『私の力でも貴方が死んだという事実を捻じ曲げることは出来ません。ですので、元の貴方に近しい状態に作り直します』
女神は契約時に俺にそう言っていた。
「元の貴方に近しい状態に作り直す。こっちの世界で問題なく技能が使えるのは、何か関係してそうだな。つっても、地下迷宮があるのは話が違うような……」
地下迷宮がこの世界にあるのなら、異世界に行く方法もあるかもしれない。
異世界にさえ行ければ、また女神に会える機会もあるはずだ。
この世界は俺の知っている元いた世界じゃない。ここは今の俺の状態に合わせて作り変え融合したような世界。
そう思わないとやっていけそうにない。だって、そうだろ? やっとの思いで戻って来れたというのに、ここは別世界ですと言われて、はいそうですか、と納得できるわけがない。
転生でも転移でも何らかの方法を探し出して女神を問い詰める。
そのためにもまず俺がこの世界において、どういう存在なのかを理解しないといけない。
それはそうと下り続けてやっとボスと戦えたってのに、頭が三つあったしケルベロスだとは思うけど、この世界のボス……ザコすぎないか。剣を振るうどころか中央の顔面に拳を一発叩き込んだだけで、消滅するとか、初心者用とはいえあまりにも弱すぎる。
まあ技能確認できただけマシか。チュートリアルだと思えば、これはこれでありか。
そういや、他の技能もちゃんと発動するか試しまくったのに全く疲労感がない。
普段ならあれだけ連発したら精命力の消費量的にも気だるくなるはずなのに……。
「もしかしたら、なんか新しい技能でも習得したか? あっ……これか、なんか変な技能名だな」
習得した技能を再確認する方法は大まかに三つ。
一つ目はその技能名を思い浮かべること。
二つ目はその技能の効果を思い浮かべること。
三つ目はここ最近の出来事を思い返すこと。
今回は技能名も効果も全くもって記憶にないため三つ目の方法を選択した。
技能は身体を動かしていたらその行動に応じて自然と習得する。
例えば剣の修練をしていたら剣に関係する技能を習得するといった感じだ。
例外もあるが基本的にはそんな感じで気づけば使える技能が増えている。
その際、脳裏に技能名と効果が浮かび上がるはずなのだが今回はそれもなかった。
肝心の新たに習得した技能は今までのものとは異なっていた。
技能は、その性能効果によって大まかに三種類に分けられる。
支援は、夜目などの日常でも役立つ技能がここに分類される。
攻撃は、剣技などの攻撃に役立つ技能がここに分類される。
守備は、盾技などの防御に役立つ技能がここに分類される。
新たに習得した技能、異能な技能はそのどれにも属さない四種類目の根源に分類されていた。
根源技能は三種の技能と一線を画す、一人に一つ自分だけが扱える特別な技能。
この技能が表立って異世界で使用されていたのは、童話として語られるほど昔の出来事。
そんな歴史上の技能をまさか俺が習得することになるとは思いもしなかった。
肝心の習得したタイミングなのだが、それは魔王が息絶えたあの時だった。
効果については精命力を一切消費せずに各技能を使用できるというものだった。
つまり……この技能がある限り、俺はどれだけ技能を使ったとしても、今後一生身体が怠くなることも精命力が枯渇して廃人になることもない。
ゲームでいうところのクリア特典ってやつだろう。
「……ふむ、これが俗にいうチートスキルってやつか。いや……だとしてもさすがにこれはやりすぎだろ!」
一人虚しくツッコミを入れたところで立ち上がり、外界に行くため転送門を通り抜けた。
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