21-3 嫡男疎外
ルーク・ランカードは、立場上では嫡男という扱いを受けてはいたが、ランカード家においてルークは忌むべき存在だった。それでも生かされていたのは、ルークしか跡継ぎがいなかったからだ。言い換えれば、妹か弟でも生まれれば、その利用価値が無くなる。そんなか細い糸で俺の生命はつながっていた。
なぜルークがそこまで虐げられていたのか、その理由はいくつかある。最も大きな要因は、その容姿にあった。代々、ランカード家はミスリルのように煌めく銀白色の髪と、菫を模した鮮やかな紫色の瞳をもって生まれる。例に漏れず、妹のミーナもまた同様の容姿で誕生したが、兄のルークはそうではなかった。灰殼が混ざったような濁った銀灰色の髪に、鈍い光を灯す瑠璃色の瞳をもって生まれた。
成長していけば、きっとランカード家たる容姿に変貌すると、最初のほうは両親も少なからず期待していたかもしれないが、そんな未来が訪れることはなかった。
桜川凪の記憶を有しているルークとしては、その程度のことで優劣を決める自体が愚かで滑稽そのもの。たかだが、容姿少し違う程度で騒ぎ立てることじゃないと思うのだが、貴族たるランカード家はそういうわけにはいかなかったということだろう。
時代が異なれば、世界が異なれば、その常識もまた異なるのがごく自然のこと。
異世界においては俺の考えのほうが異端ということになる。だが、その異端もまた女神の威光により反転し常識となる。
俺が勇者になった途端、ランカード家以外の貴族全員が改宗したかのように、考えを改めて応援してくれるようになった。
それらの支援金は全てランカード家宛に送られるため、俺の懐が暖まることはなかった。勇者業で十分な稼ぎを得ていたので、別に生活に困ることはなかったし、どちらにせよミーナの養育費にあてるつもりだったので、別に問題はなかった。
結局はその支援金もまた件の免罪符により、世界に流通していくことになる。
前述のとおり俺は両親が暮らす母屋から追い出されて、この離れで生活することを余儀なくされた。それでも寂しいという感情はなかった、なぜなら隣にはいつもイメリアが居てくれたし、妹のミーナも幾度となく会いに来てくれた。
ルークの生涯において、最高の瞬間を送ったといっても過言ではない。
ミーナが誕生したことで、定番の追放イベントでも開始されるのかと思ったが、齢10歳にして隠居生活を体験するだけの何とも平和なイベントであった。
普通に考えたら、貴族の誇りを気にする両親が嫡男を追放するはずがない。追放するということは、人目のつく外界に野放しにするということ。
ランカード家の名に傷が付くのを恐れている両親が、そんな危険なことをするはずがないのだ。
離れに閉じ込めておけば、ミーナを次期当主にするための理由付けに役立つと踏んだのだろう。
きっと『病弱な嫡男の代理』とでも言って周囲を納得させる算段。実際はそんな愚策など不要になるほど、俺の存在が希薄になるほど、妹は輝いていたわけだが。
愚痴っぽくなってはしまったが、別に俺は両親のことを一度も恨んだことはない、それどころか感謝すらしている。
ミーナというかけがえのない妹を生んでくれた人達を恨むわけがない。
ルークとしても同様だ、いつ戦火に巻き込まれるか分からない物騒な世界で、子爵家の嫡男という地位で生を受けた。衣食住に困ることもなく成人することができたのも、女神の采配があったにしろ、成人するまで育ててくれたことには変わりないのだから。
まあだからといって、もう一度両親に会いたいとか顔が見たいとか、そういった感情は一切ない。こちらとしても親孝行的なことは勇者という大義名分により、十二分に還していると思っている。
つうか、ランカード家に準ずる人で、俺が会いたい一緒にいたいと思えるのは、妹のミーナとメイドのイメリア、この二人だけだ。
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