21-2 実妹神童
ミーナ・ランカード――異世界で八つ年下のルーク・ランカードの実妹。この世界においては俺に合わせてなのか、ミドルネームが追加されていた。
ミーナ・梢・ランカード、それが彼女の正式名称となっている。
彼女は、ミーナは名実ともに神童であった。
家庭教師が授業の一環として発動した呪文をたったの一度目にしただけで、いとも簡単に発動してみせた。それはまだ彼女が2歳の時の話である。
その数か月後には、家庭教師よりも高位の呪文を扱えるようになり、一年が過ぎる頃には、王宮魔術師でも難しいとされる、四大属性全てを発動できるまでに至っていた。
兄であるルークとしても、鼻高々な誰に見せても恥ずかしくない自慢の妹。ミーナもまた俺を兄として慕ってくれていた。本当に仲睦まじい兄妹だったと思う。だが、ランカード家は……特に両親は、それをあまりよく思っていなかった。こういう時の貴族ってのは行動が素早いものだ。
すぐに俺は隔離目的として、離れで暮らすように言いつけられた。なので、俺とミーナが母屋で一緒に暮らしていたのは、そのわずか2年間のみとなっている。
貴族的視点からいえば、両親がそうしたわけも分からないでもないし、被害が俺だけで済むのなら全然受け入れるが、ことはそんな簡単な話じゃなかった。
10歳になっても呪文の一つも発動できない愚兄と、たった2歳で呪文をいともたやすく発動させた賢妹。どちらがランカード家の次期当主に相応しいかなど、比べる必要すらない。
当時の俺もまさかここまで呪文適正が無いなんて思ってもみなかったから、少しだけ落ち込んだことを覚えている。
どれほど努力しても呪文が使えないことを知るのは、それから約5年後。
勇者として覚醒し女神様から業務連絡を授かった時である。
話が少し逸れてしまったが、典型的な貴族である両親が、最も重要視していたものは貴族の誇りだった。貴族社会において、他貴族から下に見られるということは、社会的な地位を失うことを意味する。
名家であり伯爵の地位を授かっているとはいえ、歴代が行ってきた愚行により今やランカード家は斜陽に立っていた。いつその地位から転げ落ちてもおかしくない弱小貴族に成り果てていた。
そんな折、3歳にして王宮魔術師からも一目置かれるようになったミーナという存在は、ランカード家にとって聖寵、まさに神の恵みに他ならなかった。
ミーナが居れば何とかなる、あの子がさえいれば何とかしてくれると、両親はまだ4歳にも満たない幼子にすがりついた。ミーナはそんな両親を嫌悪することもなく慈悲深く接していた。
どちらが親なのかと首をひねりたくなる光景だが、今になって思い返してみると、その時の言動は完全に生徒会長のそれであった。
あの卓越した演技力は、両親を含めた自分に群がる人間を騙すために自然と身につけた技術。
ミーナが聖女のように振舞えば振舞うほど、我が子のためという免罪符を掲げ両親の金遣いはさらに荒くなり、ますますランカード家の財政は悪化の一途をたどる。
それでもランカード家が爵位剝奪や没落せずに持ちこたえたのは、ミーナが王宮魔術師になったこと、俺が勇者という地位を得たからだろう。俺が旅立つ一か月ほど前に、ミーナ宛に推薦状が届いた。総括責任者直々の推薦状に両親が狂喜乱舞していた。その半面、ランカード家から初の勇者が誕生したことには一切興味を示さなかった。
俺は別段いつものことだと気にも留めなかったが、妹のミーナはそうではなかった。
民衆どころか王家からも希望の光として畏敬の年を抱かれる兄。その存在を認めようとしない両親の迂愚に心の底から嫌悪していた。
それを誰にも悟られないように立ち振る舞う。
我が妹……なんて恐ろしい子。だが、そういう生き方を選択するしかなかったともいえる。それでも俺やイメリアと一緒にいる時だけは、年相応の子供に戻って甘えてくれた。
その甘え方や拗ね方が、昔のまま何一つ変わっていなかった。
あの頃と同じように仲睦まじい兄妹でいられるのなら、例え年齢が逆転し姉弟となったとしても……。
いやほんとマジで、ミーナがあんなに美人になるなんて思ってもみなかった。
仕方ないだろ、俺は7歳までの彼女しか知らないんだから。
それに12歳という若さで総括責任者になっていたのも知らんし……なんだよ歴代最速での総括責任者就任、歴代最強と自他ともに認める王宮魔術師って、マジで凄すぎだろ。
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