20-1 一騎当千
揺さぶり大作戦の結果報告――。
俺の思惑どおり、無事お泊り計画を阻止することに成功した。まさに瞬殺に等しいレベルで彼女は即座に白旗を上げた。
ただ家屋から出るのには時間を要した。玄関に向かうため莉緒に背を向けた矢先の出来事だった、制服の裾をいきなり掴まれて身動きが取れなくなった。人様の衣服をバリバリに引きちぎらんとするふざけた剛力。
千切れないように終始気を配りながら、制服にかかった指を一本また一本とほどく。赤子のように泣きじゃくる彼女をなだめるという作業も並行して進めた。
後者はともかく前半部分だけ切り取ると、気配を消し背後から這い寄ってくる、その様はまさに冥府に連れていこうとする亡者のそれであった。腕力だけは亡者じゃなくて巨人ではあったが。
そんな折、俺が何を考えていたかというと。
本当に、こいつは俺と同い年なんだよな……そういや、8歳年が離れていたルークの実妹、驚くほど大人びていたよな。あいつ、元気にやってっかな……。
はい、つまりはそういうことで、幼馴染が晒した醜態から目を逸らしミーナのことを考えていた。それにしても、この世界に来てから思い出すことがなかったのに、なぜ今頃になって、しかもこのタイミングで彼女のことを思い出したのだろうか。
平日におけるダンジョンの滞在時間は、3~4時間ぐらいに抑えている。放課後からとなるため明日のことを考えて、基本は夜8時、遅くても夜9時で切り上げる。今日に限っては件のこともあって、外界に出る頃には夜11時を過ぎようとしていた。
莉緒の生活を管理している身としては、この時間帯は結構ギリギリ。これから、晩ご飯を食べさせて風呂に入れるなどの所用を逆算すると、本当にもう危うい時刻だ。せめて日が変わる前に彼女を眠らせないといけない。
彼女のために、というよりも翌日の俺のために――というのが本心なことには変わりないが、今日ダンジョンで得た経験は、それを天秤にかけたとしても、俺のほうにジュウゼロで傾くことはないのかもしれない。
そう思わざるを得ないほど莉緒は急成長を遂げた。元から素養がなかったわけではないが、カラドボルグを手にしてからの彼女は完全に別人。その剣の能力を最大限に引き出そうと、自ら戦術、戦法を思考しては魔物相手に実践する。それを53階層に到着するまでの間、延々と繰り返していた。
その試行数は優に千回を超える。言い換えれば、ボスを含めたそれだけの魔物を彼女たったのひとりで屠ってきたということだ。
彼女が女児に逆行してしまったのも、四肢と脳をフル回転した代償によるもの。
そこまで疲弊するほど身体を酷使したのなら、あーなってしまうのも分からんでもない。
俺の場合だと完全に無になる。呼吸も瞬きも必要最低限しか行わない、生きた屍のように動かなくなる。
実践に勝るものなしというが、いまの彼女の実力であれば神話武具に頼らなくても、最上級生に負けることはないだろう、一部例外を除いて。
その嬉しい誤算が生じたことで、今後のダンジョン探索について計画を練り直さないといけない。そのためにもリモートワーク中に邪魔してくる飼い猫を部屋から追い出すが如く、彼女には少しでも早く眠りについてもらいたい。
そういう時に限って、これまた上手くいかないのが……以下省略。
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