02-3 技能確認
技能とはゲームやアニメとかでよくある便利機能だ。
衝撃波を飛ばしたり空を飛んだり、荷物を異次元に収納できたりする、あれだ。
タダで使えるというものでもなく使うには精命力を消費する。
精命力は言い換えれば魔力的なやつで、使い過ぎると欠乏症となる。その状態でさらに酷使すると、精神に支障をきたし最後には廃人と化す。
脱出時に使えよって話なんだが、魔王との戦いによって俺の精命力は危険域に達していた。魔王城での度重なる連戦で精命力を消費はしていたが、あの命がけの一戦はその比ではなかった。
だからこそ、黙とうのついでにあんなことを願ったのかもしれない。
自室を視野に入れた状態で、俺は発動したい技能名を声に出す。
「試してみるか。消滅せし足音」
次の瞬間、俺は部屋の中にいた。
窓から外を見下ろし元いた場所を確認する。
「こっちの世界でも技能使えるのか……マジか……」
使えたらいいなという軽い気持ちで、技能を発動してみたがまさか本当に成功するとは思いもしなかった。
消滅せし足音を簡単に説明すると短距離瞬間移動。自身を中心に直径3メートルの範囲に限り指定した位置に瞬間移動できる。
視認できる場所にしか移動できないため、障害物などで完全に見えない場合は移動できない。ただ一部でも視認さえ出来れば、その場所に移動可能となっている。
長年使われていないのか部屋全体がホコリっぽい。
定期的に換気はしていそうだが、掃除はしてなさそうな雰囲気だ。
少し移動するだけでホコリが舞い上がり、鼻もむずがゆいし咳き込みそうになる。
真っ暗な部屋を照らすため手探りで移動し、ドア横の点灯ボタンを押した。
途中に何度か手や足をぶつけたが、視界を確保したことでそれが分かった。
「あれ、本気で言ってたのか……」
天井灯により照らされた部屋の内装は、俺の知っているものではなかった。
ポスターが無いのも頷ける。誰がどう見ても物置部屋にしか見えない。
大量の段ボールとホコリの被った家具や家電が乱雑に置かれていた。
「…………俺は、俺に何が起こった?」
その後、俺は部屋の明かりを消して、抜き足差し足忍び足で家中を探索したが、期待していた結果を得ることは叶わなかった。
ここが実家なのかと疑いたくなるほど、俺が住んでいたという痕跡は何一つ見つからなかった。
靴も食器も歯ブラシも……その全てが両親の分しかなかった。
受け入れ難い事実に膝から崩れ落ちそうになったが、ここで物音を出せば下手すれば不法侵入で捕まる危険性があったので、奥歯を噛みしめ足に力を入れて必死に耐えた。
絶望的な状況に陥ったことで、なんか冷静に物ことを考えられる余裕が出来た。
これもまた勇者として戦いに明け暮れた経験によるものだろう。一つ選択肢を誤れば死に直結するような過酷な旅だったが、こんなところで役に立つことになるとは……。
とりあえずまず最初に俺がやるべきことは、心安らぐはずだった実家からの脱出だ。
リビングに移動して窓から庭を眺め技能名を連続で発声する。
「消滅せし足音。狩猟の夜眼」
狩猟の夜眼は夜間でも昼間のように視界を確保できる技能。夜道も安全ナイトビジョン。
死ぬ前の世界に来たのだとしても、何の痕跡も無いのはあまりにも不自然。
逆に死んだ後の世界だとしても、何かしらの痕跡が必ず残っているはずだ。
それが実家であれば尚更よりこく残っているはずなのに、それすら見当たらない。
グルっと実家を一周して隣の家を一瞥したのち、夜風を浴びながら来た道を引き返す。
この道筋が通学路ということもあり、ひとまず俺は道筋に沿ってそのまま学園に向かうことにした。
俺自身が桜川凪という人間でなかったとしても、学園の制服を着ている以上、そこの在学生である可能性が高い。
ただそれだけの安直な理由だけじゃなく、学園には国内屈指の所蔵数を誇る図書館がある。そこで何かしら情報を得ることができるかもしれない。
それはそうと――。
この世界に降り立った時は背を向けていたから気づかなかったが、この現代にあってはいけないはずのものが見えた。
遠方のため見間違いの可能性もあるが、もし俺の認識が正しいのならこの世界は――。
十字路からさらに数百メートル先にそれはあった。
四方を鉄格子で囲まれ唯一の出入口は強固な扉により封鎖されていた。
その中央に幼児が粘土遊びに飽きて放置したような歪な建造物が鎮座していた。
「なんで地下迷宮が朝月町にあんだよ……」
やはりこの世界は俺の知っている世界ではないらしい。
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