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18-1 巨人撃滅

 一太刀のもとにサイクロプス(ボス)は膝を折り地に伏せる。

 巨木を思わせるその巨躯は薄れて綻びていき、最後には元から存在しなかったかのように消滅する。

 血沸き肉躍るような激戦もなく、彼我結莉緒(ひがゆいりお)単独(ソロ)でのボス戦はわずか数秒で幕を閉じた。


 待ちに待ったボス単独撃破だというのに、彼女は喜びの感情一欠けらすらも見せず、ただただ物寂しそうに大地を見つめている。


 その理由について察しはついている。


「……上手くいきすぎたか」


 単独ゆえの独特な緊張感や駆け引きの一つも、味わうことも楽しむこともなく、たったの一撃、初撃でボスを倒してしまった。

 戦闘が楽になるといっても、ボスと攻防戦を繰り広げられるはずだと、彼女は少なからずそう思っていたのだろう。だからこそ、彼女は今現在こうして哀愁漂う背中を俺に見せている。


 莉緒が少しでも楽に倒せるようにと思って授けた策だったが、俺はそのことを優先するばかり、彼女の気持ちに1ミリも寄り添っていなかった。


 自分の手で倒したという実感が湧いてこない。

 その行き場のない虚しさを心底に埋めているのだろう。

 俺は彼女が抱いている、その感情に覚えがある。

 懐かしい一死合を鮮明に思い出す、かのセリフとともに。


『だがそれでも魔王を、我を倒したことには変わらぬだろう?』


 リセットできるのであれば、もう一度最初(いち)からやり直したい。その思いは痛いほど理解できるが、それは不可能というものだ。

 もしそれが可能なのであれば、俺だってもう一度魔王と戦いたい。


(まあ一緒にするなと言われそうだけど……)


 俺と彼女が抱く感情、着地点は一緒かもしれないが、そこに至るまでの経緯が大きく異なっている。

 片や自分のミスにより引き起こしたもの、片や他人の力を借りたことで引き起こされたもの。


 俺の場合は自分で判断して決めた、後悔こそあれどその事実を潔く受け入れられる。

 彼女の場合は最終的に自分で決断を下したとはいえ、他人()の入れ知恵により圧勝した。これが協力戦とかであれば、笑い飛ばせたかもしれないが今回はひとりでのボス戦、しかもこれが記念すべき初戦。


 このどこにもぶつけることができない憤りを彼女に与えてしまったのも、こんなあっけない結末を迎えてしまったのも、全ては俺が莉緒の実力を過小評価していたのが原因かもしれない。


(……祝勝会も兼ねて、夕飯はあいつの好きなやつだらけにしてやるか)


 それはそれとして、俺はこの予想以上の成果に驚喜している。


 サイクロプス対策として貸し与えた武具が、想像したよりも遥かに彼女と相性が良かった。


 莉緒は手先が器用で何でもそつなくこなせるが、悪くいえば突出したものがない器用貧乏。

 その特技を活かして、状況に応じた武具に交換しながら戦ってきた。この階層でも問題なくゲートまで辿り着くことはできた。だが、いずれきっと通用しなくなる。必ずそういった強敵と出くわす。


 俺や莉緒のように多種多様の武具を扱う人物のことを全能武具使い(マルチウェポン)と呼ぶ。

 中二病をそそるような非常にカッコいい名称をしているが、大半はその後ろに『www』と草が生える。

 そこまで蔑称される理由としては、前述のとおり器用貧乏であることが起因している。

 中途半端な能力、どれにも特化していない付け焼刃のような存在。そんな人物を仲間に加えるぐらいなら、最初からどれかに特化した人物を仲間に入れたほうが安牌。


 異世界で出会った全能武具使いのなかでも、彼女は上位のほうだと思うが、それでも何か一つに特化した人たちに比べると、その実力は霞んでみえてしまう。それほどまでに特化型と汎用型とでは圧倒的な差がある。

 だからこそ、俺はその一般的な考え方を改め、逆の発想で彼女の能力を底上げする武具を選んだ。


 そもそもの話、この武具交換戦法を実行に移すには、俺が同行していることが必須条件。


 彼女のそばを離れる気はもとよりないが、一階層違うだけで環境がガラリと変化するダンジョン。この環境下に身を置く以上、何が起こるか分からない。

 それらのことを考慮しても、この戦法一本だけで今後も戦い抜いていくのは厳しいものがある。


 サイクロプスに関してもそうだ。本来の倒し方としては、まず弓矢などで単眼を狙撃し視力を奪う。次に刃が通りやすい、ひじの内側やひざの裏、首すじといった皮膚が柔らかい部位を攻撃する。

 この攻略法を採用した場合、俺は狙撃用の武具、殺傷用の武具を二つ用意しなければならないし、莉緒もまたそれらの武具を装備しないといけない。

 今回の場合は、狙撃したあと不要となった武具を手放すだけで済むが、毎回こうとは限らない。


 俺にはお手軽収納術ディメンションストレージがあるが、彼女にはそういった収納技能はないので、装備する武具が増えればその分、単純に量が増して重くなる。

 軽快な動きによる攻守防衛を得意としている彼女にとって、重さにより動きが鈍くなるというのは、あまりにも致命的、羽をもぎ取られ地を這う蜻蛉ぐらいに致命的。


 またこの戦術はパーティ用で6人以上推奨となっている。なので、俺と莉緒の2人しかないのに、この戦術を当てはめようとすること自体が過ちだったりする。

 止めなかった俺が言うのもなんだが、一対一で巨人とやり合おうとする命知らずな人間はいない。余ほどのもの好きか、俺のようなぼっちぐらいのものだろう……。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


面白いな続きが気になるなと思っていただけましたら、是非ともブックマーク、評価、いいねの方よろしくお願いします。作者の励みになります。

特に★★★★★とかついた日には作者のやる気が天元突破します。


他にも色々と書いておりますので、もしよろしければそちらも一読していただけますと幸いです。

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